2023年6月号 <インタビュー>

ヤッホーブルーイング 井手 直行 氏

井手 直行 氏

寡占市場に風穴を開ける
高くても売れる「おもてなし組織」の秘訣

ヤッホーブルーイング
代表取締役社長
井手 直行 氏

国内のクラフトビール業界を牽引するヤッホーブルーイング。井手社長自らが、顧客(エンドユーザー)とのコミュニケーションを実践し、新たなチャネルを開拓。コロナ禍の巣ごもり需要をも追い風にし、成長を続けている。他のビールより高くても売れる。その秘訣である「顧客第一主義」の体現と「おもてなし組織」の作り方を聞いた。

Profile

井手 直行 氏(Naoyuki Ide)

ヤッホーブルーイング 代表取締役社長

1967年生まれ 福岡県出身。久留米工業高等専門学校卒業。大手電器メーカーにエンジニアとして入社。広告代理店などを経て、97年ヤッホーブルーイング創業時に、営業担当として入社。業績が低迷する中、2004年にはネット販売担当として事業を推進。主力製品の「よなよなエール」を武器に業績をV字回復させる。08年に社長に就任。

──クラフトビールの売り上げが好調です。

井手 1994年の酒税法の改正までは、大手4社がビール市場を独占していました。そのため、“売れ筋商品”のみが売り場を席巻していました。その後、規制緩和により中小メーカーのビール製造が可能になり、当社もフラグシップビールの「よなよなエール」を97年に発売しました。

 90年代末から2000年代前半は、価値観の多様化や“自分らしさ”を尊重する機運が高まり、消費者が「ビールにはいろいろある」と認識。多様で個性的なビールに関心を持つ方が増えたことが、クラフトビール人気を後押したのでしょう。ここ数年は、大手企業がクラフトビールを発売するなど、消費者の認知度と選択肢がさらに広がり、追い風が吹いていると感じます。

──コロナ禍での経営概況は。

井手 外食や、旅行に出かけられない「巣ごもり需要」の波に乗りました。せめて家では美味しいものを食べ、良いお酒を飲みたい。こうしたニーズがクラフトビール人気を押し上げました。スーパーやコンビニでの取り扱いが、さらに増えたこともあり、クラフトビール国内シェア1位の当社製品を、手に取っていただく機会も増えました。19期連続増収も達成し、ここ数年は、毎年20名前後を採用し続けています。

──倒産の危機も経験しています。

井手 創業から8年間は赤字。泣くなく製品を廃棄したりもしました。起死回生の策として、私が通販サイト楽天市場の店長を務め、本格的に運営し始めました。そのころのよなよなエールはまだ、大手スーパーなどに陳列してもらえる存在ではありませんでした。

 大手各社は、店舗営業を展開している手前、卸や小売店への遠慮から、ダイレクト販売を強化することは難しい。ビールを扱う企業として、いち早くこのチャネルに取り掛かれたことが、差別化につながりました。年間契約のサブスクリプションサービスを展開したことで、出荷量も見通せるようになり、飲み続けてくれるファンの方々も増えています。現在は、流通チャネルの売り上げ比率の方が高いですが、ここに至るまでにはインターネット通販に舵を切り、消費者と直につながるダイレクトチャネルを得たことが、ターニングポイントになったと感じます。

ネット通販が危機を救った
顧客との対話を戦略の柱に置く

──ネットでのコミュニケーションにより、顧客戦略への変化は。

井手 お客様から直接、「美味しい」といった声をいただけるようになりました。そこで、メールマガジンなどを使い、製品や自社の魅力を発信し始めました。企業規模はまだ小さく、大企業のように大々的な広告を出す余裕はありません。メルマガやホームページ、お客様へのメールで、直に訴求する施策を採らざるを得ませんでした。しかし、結果的にそれが、強みになっていきました。お客様と直にコミュニケーションを取れることが当社の強みだと強く認識し、いかに既存のお客様のロイヤルティを高めるかを、戦略の中心に据えて徹底的に追求しました。

(聞き手・荒木 世理子)
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2024年01月31日 18時11分 公開

2023年05月20日 00時00分 更新

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