心地よさ×好印象×付加価値を届ける ブランドコミュニケーションの設計図 第6回

2024年12月号 <心地よさ×好印象×付加価値を届ける ブランドコミュニケーションの設計図>

山下未紗

戦略編

第6回最終回

人にしかできない「非効率」の価値
対話の積み重ねで未来の顧客を創ろう

顧客に興味・関心をもち、顧客が喜ぶ情報提供をする──こうした「おせっかいコミュニケーション」を重ねていくことは、“ブランドらしさ”を伝えるだけではなく、そのブランドの顔として対応しているコミュニケータの1人ひとりの自信と誇りにつながっていく。顧客との関係を深め、価値を生み出すには、こうしたコミュニケーションを実践できるコンタクトセンターをビジネスの中心に据えることが必要だ。

PROFILE
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山下未紗
コンタクトセンター業界20年、顧客関係構築の専門家。ブランドPRにも携わり、現在はフリーランスなおせっかいさんとしてブランド成長におけるパーソナライズなコミュニケーションをアドバイス。

 従来のコンタクトセンターは、コストを重視し、主に効率性やクロスセル、解約阻止といった短期的な収益目標に向けて機能してきた。しかし、こうしたやり方は、顧客との長期的な関係構築や真の価値創出を見逃すことにもつながっている。

 デジタルツールやAIの進化により、多くの作業を自動化できる時代になったからこそ、コンタクトセンターの生産性を高め、単なる効率性の追求から「人間にしかできない価値創出」へと思い切りシフトすべきだと考える(図1)。

図1 「効率性 vs 非効率」の対比図
図1 「効率性 vs 非効率」の対比図

 具体的には、顧客との感情的なつながり、問題解決、共感を通じて、顧客との深い絆を作ることが重要だ。「また、あなたから買いたい」と顧客が心から安心して再びやり取りしたいと思える人になれるかが、コンタクトセンターで働く人が持つべきマインドである。人としての魅力、「また会いたい」と思ってもらえるかどうか。ここをしっかり磨いていくことがブランド力を育むポイントになる。

コミュニケータの理解を深めよう

 ブランド構築の一端を担うコミュニケータ達が、そのプロダクトやサービスを好きになれるような仕掛けやコミュニケーションを構築することも重要だ。新商品の発売時などに合わせて、情報を申し送りのようにコミュニケータへ提供するのではなく、顧客と一番近い場所でやり取りするコミュニケータが興味・関心を持てるか、「使いたい」と思わせる情報の伝え方をしているかどうか、などを重視すべきだ。多くの企業が、プロダクトやサービスを「作って終わり」になっており、それを届けて、「使い続けたい」と思ってもらえるようなコミュニケーションについては実践できていないケースが少なくない。

 プロダクトの一番のファンに、顧客と一番近いコミュニケータがなっているかどうか。人は好きなことは自然とおススメしたくなり、1つひとつの言葉に重みや深みが加わる。顧客に伝える人たちがどれだけブランドのファンでいられるか、企業がまず一番にやるべきことはここだと考える。

コンタクトセンターをビジネスの中心に

 コンタクトセンターは、言うまでもなくブランドと顧客が最も直接的に接する場所であり、リアルタイムで顧客のフィードバックやニーズを理解できる唯一の部門だ。コンタクトセンターは、ビジネス戦略に重要なインサイトを提供し、経営判断に影響を与える役割を担うべきだ。そうした視点でコンタクトセンターを捉えると、今まで見えなかった新しい可能性に気が付けるはずだ。マーケティングや経営、製品開発など、ブランディングにかかわるあらゆる機能のハブとなりうる(図2)。

図2 コンタクトセンターがビジネスフローの「ハブ」になる
図2 コンタクトセンターがビジネスフローの「ハブ」になる

 顧客の温度感や距離感、ちょっとした反応、それらに気が付ける余裕をコミュニケータに持たせることで、価値が生まれてくる。

 公開中の映画「ラストマイル」を観て、はっとさせられることがあった。ほとんどの仕事が「生産性」を高める時代の中で、ささいなことに気が付ける余白が顧客満足に繋がるという考え方である。コンタクトセンターにも同様のことは起きているのではないかと思った。私自身も、生産性を求めていた時代があったが、突き詰めれば突き詰めるほど、それは私でなくてもできる仕事を量産しているように感じた。生産性を高め、コストを抑えて、稼働を止めずに成果を追うことを突き詰めた結果、誰の笑顔もない。「誰かを幸せにしたい」と思って作られたプロダクトやサービスを、理想と異なる薄利多売という形で売る。理想と行動の一致は、「きれいごと」と解釈されることも多いが、D2Cブランドは「きれいごと」を仕組みと運用に落とし、磨いていくことが業界を繁栄させるカギとなるように思える。

 コンタクトセンターをブランドの中心に持っていくことだ。コミュニケーションに力を入れるところと、緩めるところの境界線を明確にし、AIやデジタルツールは効率化された作業を補完する一方、人間だからこそ実現できる顧客との深いつながりを築いていく。長期的な収益を生み出すためには、短期的な利益だけに焦点を当てるのではなく、顧客との信頼関係を強化することが最も重要だ。それを実現できる場所が、コンタクトセンターである。

 コンタクトセンターは、コスト削減や生産性を求められ品質向上を図るなか、忙殺され疲弊し、未来を明るく描くことが難しくなっている。しかし、だからこそ、主体性や誇りをもち、自分たちをブランドの中心に据え、顧客との強固な絆を築き、ビジネスの持続的な成長に貢献する戦略的パートナーとして再定義されることを望みたい。

2024年11月20日 00時00分 公開

2024年11月20日 00時00分 更新

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