市界良好 第141回

2024年1月号 <市界良好>

秋山紀郎

市界良好

<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

CX向上策

秋山紀郎

 2023年は、広範囲にわたる記録的な値上げラッシュだった。とくに食料品やレストランの値上げが印象強い。当初はいくら上がったか気になっていたが、落ち着いてしまうと、以前の値段を忘れてしまっている。ところが、美味しくなかった商品やお釣りを間違えられた店のことは忘れない。細かい金額は忘れても、「体験」は長く覚えている。だから、顧客体験が大事なのである。

 最近、CX(顧客体験)向上に関するコンサルティング依頼が多い。背景のひとつが、自社で商品開発・製造・販売までを一貫して行うD2C(Direct to Consumer)が、アパレル、食品、化粧品などの業界で増えていることや、スマートモビリティの検討が、自動車、鉄道、家電業界などで本格化しているからだろう。スマートモビリティは、自動運転やIoTを活用したセンサーなど、従来の交通や移動を変える新しいテクノロジーであり、移動が効率的になるだけでなく、スマホや自宅の家電製品とつながることで、我々の生活が一気に変わる可能性がある。顧客体験が非常に重視される領域であり、関連する各企業においてCX向上について真剣に考えるようになったようである。

 顧客体験は非常に奥が深い。顧客サービス向上とは「視野」が違う。あらゆる場面で、顧客が企業から受け取る心理的な価値であり、コミュニケーションやサービスの質が問われる。そして、どのようなKPIで評価するのかと尋ねられることがよくある。定量評価を試みるのは良いが、顧客体験とは何かを社内で定義していなければ定量評価はできない。自社にとっての顧客は誰か、顧客との接点はどこまで含めるのか。Webやチャットなどのデジタルチャネル、コンタクトセンター、リアル店舗も顧客体験の対象となるはずだ。これらの接点から得られたデータを分析する体制も必要になる。

 心のこもった接客を受けたり、想像以上の景色だったり、また、スターバックスでカップに気遣いのメッセージを書いてもらっただけでも期待を超えた体験は記憶に残る。しかし、今はSNSで個人の体験が容易に共有されてしまうため、事前期待を超えるのはなかなか難しい。一方で、残念な対応が悪い体験として顧客の記憶に長く残ってしまうことは避けなければならない。使いづらいアプリはすぐに利用されなくなるし、役に立たないチャットボットは次からすぐに閉じられてしまう。一度離れた顧客を呼び戻すのは大変だ。顧客にストレスを与えない業務プロセスやUIは何なのか、つまりネガティブな体験を抑止するだけでも、容易ではない。とくに、スマホのアプリや通販の宅配、ポイントプログラムのように複数の企業が共同でサービスを提供している場合は、連携して良い顧客体験を提供しなければならないから難易度が高くなる。

 良い顧客体験を提供するには、顧客のことをよく理解していなければならない。顧客の住所、家族構成、好み、所有物、購入経験など、それぞれが異なるから事前期待も異なる。例えば韓国旅行に10回行ったことのある人と、初めての人に、提供すべき情報は違う。顧客のことを理解したうえで、パーソナライズされたサービスを提供することがCX向上に欠かせないのである。

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年12月20日 00時00分 更新

CX

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