IT

市界良好 第140回

2023年12月号 <市界良好>

秋山紀郎

市界良好

<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

コスト削減の限界

秋山紀郎

 米国のクラウドベースのコンタクトセンターIT市場は、引き続き好調である。とくに生成AIを組み込んだ拡張機能への注目度が高く、各ITベンダーの実績を押し上げる要因になっている。当初、生成AIが一気に広まったとき、自分の仕事がなくなるのではと真剣に考えたオペレータが多くいたが、今では、生成AIがクラウドソリューションに組み込まれたことで、オペレータの作業を支援してくれるものという考え方が広がっているようだ。日本市場においても生成AIに関するニュースが毎日のように報道されるが、コンタクトセンターのオペレータが日常的に業務で使っているという話は非常に少ない。日本のITベンダーでも生成AIを活用した提案やPoC(Proof of Concept)が進められているため、今後、ユーザー事例が多く聞かれることに期待したい。

 日本のコンタクトセンターIT市場は、DXブームもあり、好調だと思うが、日米では投資目的が違うようである。米国において、コンタクトセンターIT投資理由の第1位は、顧客体験の向上だ。より良い体験を提供することで差別化を図り、企業間の競争を勝ち抜くと考えているのだろう。つまり、センターが顧客体験を提供する重要かつ戦略的な部門であると位置づけられているのだ。一方、日本の場合は、呼量削減に代表されるコスト削減がIT投資の主目的になっている。ボイスからノンボイスへのシフト基調も、オペレータによる電話応対よりも、チャットボットや有人チャットによる応対の方が、コストが低いという期待のもとで進められているケースが多い。システム老朽化に伴うリプレースにおいても、必ずと言ってよいほど総費用の低下が求められる。

 なぜ日本のコンタクトセンターでは、コスト削減が好まれるのだろうか。コスト削減は、その結果が実現するまでが早く、明確である。でも、それだけが理由ではない。米国との違いを踏まえると、顧客との接点であるコンタクトセンターが競争優位に立つための戦略部門であると見られていないから、コスト削減に積極的なのだろう。競争と関わらない部門であるならば、かかるコストが少ければ少ないほど良いということになる。今、コンタクトセンターでは採用難になっているが、コストを削減している部門に、好んで人が来るとは思えない。また、ひとたびコンタクトセンターの現場が忙しくなると、教育研修の時間をカットしてしまう傾向がある。これでは、日々の運用をこなすコスト部門と言っているようなものである。長期的視点で人材育成を行わない部門に、良い人材は育たない。

 エネルギー価格や原材料費の高騰が続くなか、クラウドサービスが普及するコンタクトセンターにおいて、いよいよコスト削減の材料が尽きてくるのではないか。新しい技術をコスト削減のために使っていくと、収益性が良くなったとしてもグローバル競争から遅れをとってしまう。今一度、コンタクトセンターのサービスは企業のブランドであり、顧客とのコミュニケーションにおいて良い印象を与え、企業の成功に寄与するということを思い出す必要があるのではないか。顧客体験向上のためのIT投資が常識となるよう、業界全体で取り組みたい。

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年11月20日 00時00分 更新

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