市界良好 第139回

2023年11月号 <市界良好>

市界良好

<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

ピーク対応

秋山紀郎

 新型コロナウイルス感染症の位置づけが、季節性インフルエンザと同じ5類に緩和されてから、各地で混雑が始まった。さまざまなイベントが再開され、多くの外国人が訪日するようになった。観光地のキャパを超えるほどの観光客が押し寄せるオーバーツーリズムにより、タクシーやレンタカーが不足、ホテルや飲食店ではアルバイト不足で収容力を広げられない事象も起きている。一方で、ひと頃は電話がまったくつながらなかったワクチン接種を支援する自治体コールセンターは、オペレータをしっかりと配置したにもかかわらず、閑古鳥が鳴いているという。コロナ禍による経済的ダメージから復活したいのに、皮肉なものである。

 急激な需要増に対応できない事象は以前からある。食品などで、想定以上の広告効果やインフルエンサー、天候などの影響で需要が逼迫、「予想を超える売れ行きのため販売休止」という事態だ。半導体不足による自動車の減産のように、原材料が確保できないときにも発生。製造業や販売業では、適正な生産システム、在庫管理、配送網が必要であり、とても難しい課題である。

 コンタクトセンターもピーク時の対応がオペレーションの要である。オペレータ着信前に、Webで混雑時間を提示、IVRやショートメッセージによる案内やコールバック予約が効果的な場合もあるが、電話でオペレータとすぐに話したいというニーズには合わない。先日、カード決済の承認に時間がかかっているためコンタクトセンターに連絡したが、コールバック予約になり、予約枠が翌日になってしまった。これでは安心してカードを使えないと感じた。オペレータ着信後の対策についてはどうか。現場で急にオペレータを増員することは不可能なことが多い。だからと言って、通話を早く終えようとしてはいけない。待ち時間が長い病院で、ようやく順番が来て、面会した医師が診察を急いでいるとしたら、あなた(患者)はどう思うだろうか。このように、コンタクトセンターにおいて、待ち呼が発生し始めると、でき得る対策は非常に限られてくるのである。

 ピーク対応としては、待ち呼を発生させないための呼量予測と事前のオペレータ数の確保が重要である。呼量予測ができていれば、専用ダイヤルによる臨時センターの設置や短時間勤務のオペレータの配置、コンタクトリーズンに合わせてスキルのあるオペレータを配備するなどが考えられる。しかし、現実問題として、オペレータ育成には時間がかかるため、ピークを作らないことが一番だ。入電のきっかけとなるような郵送物発送、メール送付のボリューム調整は多くの企業で取り組まれているが、休日明けや月末、転居シーズン、急激な気温の変化など、コントロールできない要因でピークが発生することへの対処は難しい。一方で、予約販売開始直後、災害直後など、明らかに理由が分かっている状況であれば、利用者も仕方ないと感じるだろう。

 今、コンタクトセンターは人材難、採用難だ。デジタル化の号令のもと、各社がノンボイスコミュニケーションの強化を図っている。その点に異論はないのだが、オペレータにつないでほしいというニーズにしっかりと向き合うことも忘れてはならない。

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年10月20日 00時00分 更新

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