市界良好 第138回

2023年10月号 <市界良好>

市界良好

<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

標準に合わせる

秋山紀郎

 コンタクトセンターで活用されるIT領域において、次々と新しい機能が開発され、クラウド形式で提供されている。サブスクリプションモデルであるから、ユーザー企業は新規機能を開発することなく、ベストプラクティスが組み込まれた新しい機能を利用できる。変化が激しい状況下のソリューション選択肢として、とても有益だ。

 一方、高機能かつ多機能化が進み、さまざまなベンダーがサービス提供しているため、自社の状況に適合するITサービスを選択するのは非常に難しい。にも関わらず、自社コンタクトセンターの将来像の定義や要件定義などのプロセスを適切に踏まず、メジャーなクラウド製品を選択しようとするケースが散見される。そして「標準に合わせる」という方針が打ち出され、現場が混乱するのだ。ルールが決まっている会計や人事などの領域であっても、例えばコード体系が合わないなどのギャップが生じることがある。一方、独自性が問われるカスタマーサービスにおいて、将来像が既製品と同じでいいはずがない。カスタマーサービスを標準機能だけでカバーできるとしたら、競争力がないということだ。標準機能が充実したクラウド製品を選び、なるべく標準に合わせる方針に異論はないが、実行するのは簡単ではない。現場の理解を得て既存業務を変更するだけでなく、取引先との契約変更や顧客向けサービスの内容を変更しなければならないということもある。結果、検索機能が悪くなった、操作画面が面倒になった、レポート類が見づらくなった、手作業が増えた、提供サービスが悪くなったなどの悲鳴を耳にすることもある。これでは本末転倒であり、競争力を失うことになりかねない。明らかに誤った進め方だ。

 どの企業にも、サービスの現場には強みや特徴がある。標準的なサービスに合わせられること、合わせてはならないことを区別しなければならない。その区分と、適切なITサービスを組み合わせることは、コンサルティングを長く行っている私でも難しいと感じている。ITサービスの導入を簡単に考えてはならない。

 最近、領収書を分けてほしいなど簡単なリクエストに対して、「システム上、できない」と言われたことがあった。システムとは、業務を含めた企業としての仕組みを指しているのか、コンピュータシステムの機能を指しているのか正確には分からないが、腑に落ちない説明だ。まるで、顧客にも企業が提供する標準システムに従ってほしいと言っているように感じる。また、最近は、このようにシステムを理由に拒絶されることが増えた気がする。標準に合わせるという方針が現場に浸透すると、顧客に対してもシステム上できないという理由を押し付けてしまうようになるのだろうか。

 カスタマーサービスで重要なことは、共感力などのコミュニケーションに加えて、迅速性、柔軟性、それと問題解決力である。何らかの事情でうまく前に進められないときに、カスタマーサービスの力量が問われる。現場への権限移譲が不十分で、標準サービスを提供するだけなら人は要らない。どれだけ工夫するのか、何ができるのかを考えることが、人の役割なのである。

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年09月20日 00時00分 更新

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