市界良好 第134回

2023年6月号 <市界良好>

市界良好

<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

自己解決とオペレータ

秋山紀郎

 あるインターネットバンキングで1日あたりの振込限度額を引き上げる方法を検索したところ、日中にコールセンターに電話が必要とのことが分かり、翌朝電話した。5分くらい待たされ、ようやくオペレータにつながった。限度額を引き上げたいと伝えると、なぜか担当者に代わるということで、別のオペレータに転送され、手続きが始まった。セキュリティ番号の入力などすべてが終わって手元の時計を見ると、14分かかっていた。しかし、実際に限度額が上がるのは、さらに翌日なのだ。いつも利用しているインターネットバンキングでは、自分で限度額の引き上げが即座にできる。セキュリティ対策など条件は同じはずだが、同じ銀行業界でずいぶんとサービスが異なると思った。振込限度額の引き上げだけで、ここまで「手続きが重い」と、普段から利用したいとは思わない。インターネットバンキングであるのに、人による手続きが多いから、コール増や通話時間も長くなるのだろう。また、最初に出たオペレータに手続きしてほしいと思った。

 駅でも似たような経験をした。通学証明書の提示が必要な通学定期券を購入する必要があったため、駅の窓口に行ったのだが、駅員は対応してくれず、専用の券売機を案内された。専用の券売機を通じてリモートのオペレータが対応する仕組みである。他の券売機に客待ちはないが、1台しかない専用の券売機のみに5人も並んでいた。それにも関わらず、目の前の駅員が手続きをしてくれなかった理由が分からない。

 一方、ある通販ではスムーズな自動化ができていた。商品選択がしやすく、商品購入後のメール案内や配送も迅速に始まった。しかし、私は少し込み入った事情を抱えてしまい、やむを得ずコンタクトセンターに電話することになった。驚いたのは、私の携帯電話番号をもとに、品物がいつ配送されたか、一部の品物は別送されることなど、的確に自動アナウンスが流れた。どれも、ありがちな質問だと思った。よくある質問に応じて、必要な情報がIVRに集約され、利用者の行動を踏まえた自動化が設計されている。ショートメッセージが送られて、FAQ検索を促されるケースはあるが、この自動アナウンスであれば、自己解決による呼量削減に効果的だと思った。それだけではない。オペレータとの対話を選択すると、迅速につながるだけでなく、注文の経緯や内容、自動発信のメール文まで、細かく把握されていた。そして、私の質問を待っていたかのように、すべてに即答してくれた。保留もエスカレーションもない。とてもスムーズな会話で気持ちよく用件を終えた。

 利用者の多くが自己解決を望んでいる。そのためには、利用者に必要な情報と機能が与えられなければならない。それができずにオペレータにつなげる場合は、情報の引継ぎが大切だ。また、オペレータは十分な業務知識と案内や判断に必要な情報を持っていなければならない。そして、主体性を持たせることも重要だ。エスカレーションなく、オペレータひとりで対応が完了できれば、誰にとっても良いことである。

 自己解決を促すWeb、オペレータが主役となるコンタクトセンターとも、必要な情報を十分に提供しているか確認してみよう。

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年05月20日 00時00分 更新

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