<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp
BCP
秋山紀郎
コンタクトセンターでのBCP(事業継続計画)として、実効性の高い対策といえば在宅センターである。オペレータが分散勤務する形態は、災害に強く、人材募集の条件としても効果がある。在宅勤務に慎重だった企業も、新型コロナに伴うニューノーマル対応をきっかけに、次々と在宅シフトを開始した。オペレータを孤立させないことや生産性などの観点から、拠点運営形態に戻す動きが一部であるが、在宅という選択肢を持っていることは大きい。一方、在宅センターを実施できていない企業の多くは、機密情報の取り扱いに関する厳しい規制があるか、オンプレ型のシステムを採用していることが理由となっている。したがって、システム更改をきっかけに、オンプレ型からクラウドシステムへの移行が積極的に進められている。CRMシステムに始まり、FAQやチャット、そしてPBXに至るまで、コンタクトセンターを構成するほぼすべてのシステムがクラウド形態で提供されている。各システムの稼働率は、99.9%を上回ることも多く、大規模障害のニュースもあまり聞かれない。
しかし、クラウド一辺倒で本当に良いのだろうか。パブリッククラウドには、常に最新技術が投入されるため、サービス内容が進化し続け、ユーザーはその恩恵を受けられる。半面、新しい技術を組み込むと、予期せぬ障害が発生するリスクがある。最近では、サイバーテロなどの情報セキュリティリスクも懸念される。本来、長期的にシステムを安定稼働させたい場合には、オンプレのほうが良い。また、多くのクラウドサービスが、米国のクラウド基盤に依存していることも留意すべきことだ。米国では、インフレが広がり、利上げによって株価が落ち込んだ。人材採用を拡大していたITベンダーは、一転して大量解雇に踏み切らざるを得なくなった。今後、クラウド基盤の価格が大幅に上昇するかも知れない。システムの安全性や安定性とともに、クラウドベンダーの長期的な安定のもと、多くの重要ビジネスが成り立っているのである。もちろん、すぐにオンプレへの回帰が必要だとは思わない。しかし、多くのユーザー企業がクラウドサービスに依存することで、オンプレ型で技術を磨いてきたITベンダーの人材や、システム設計や構築のノウハウが失われていくのではないだろうか。いざオンプレ回帰のムーブメントのときに、迅速に対応できるのだろうか。
いずれにせよ、ユーザー企業は、クラウド型コンタクトセンターのBCPを策定する必要がある。通信ネットワークと各クラウドサービスのすべてが同時に動いているときに、センターの業務が正常に動く。どれか一つでも作動しなければ、たちまちコールが増え、オペレータの負担が増すことになる。BCPとして、すべてのインフラや利用サービスを二重化する万全の備えは難しいから、どこかのサービスで不具合が生じたときの対処方法を準備しておくことが現実的だろう。チャットボットが使えなくなったとき、FAQシステムが使えなくなったときなど、具体的なシーンを想定して、業務の優先順位や社内外の連絡方法などの取り決めをしておくだけでもかなり違う。できれば、訓練もしておいていただきたいところだ。備えあれば憂いなしなのである。
2024年01月31日 18時11分 公開
2023年04月20日 00時00分 更新
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