千客万来 百鬼夜行 第16回

2026年5月号 <千客万来 百鬼夜行>

多和田 元

コラム

第16回

行き過ぎた応対がはらむ危険性

 コンタクトセンターには、時に、とてつもない電話が寄せられる。季節のせいにしてはいけないが、やはり春先に多い。

 「『パンの耳』の意味とは、何でしょうか」。電話を取るなり、そう聞かれて面食らった。一瞬、頭の中を、荘子の「無用の用」などの哲学的な命題が駆け巡ったのだが、ご質問の主旨は、「食パンについている耳」そのものについてだった。

 長年の顧客であることもあり、こちらは言葉を扱う仕事なのだから、と、業務外ではあるが、会話を続けることにした。

 食パンの「縁」という意味であれば、織物などの縁の厚い部分も「耳」と呼ぶ。江戸時代には、貨幣の縁の厚い部分もそう呼んだ。過不足なく用意するという意味の「耳をそろえる」という言葉も、「端をきっちり重ねる」というのが語源である。

 だが、「食パン」にだけ、何か歴史的な経緯があるのかも知れない。念のために調べてみると、これがちょっと面白い。日本で「食パン」と呼ばれるものは、仏では「パン・ド・ミ」と呼び、「パンの耳」と響きが似ている。しかし、仏語では「ミ」は、内側の柔らかい部分のことだという。すると、それは「柔らかい部分を食べるパン」であり、「パンの耳」と「パン・ド・ミ」とは、響きは似ていても対照的な部分を指すのだぞ……などと、自分がつい脱線してしまった。

 もっとも、そこまでは雑談はできないので、前段の「縁」のついてのみ、ご説明した。そんなやりとりも、時にはちょっと楽しいし、お客さまとのコミュニケーションは、自社のファンを増やすことにつながる。

 だが、コンタクトセンターで「脱線」は、あくまでも世間話にとどめておかなければならない。クレームにつながりかねないし、責任問題も生じるからだ。

 オペレータの中に、商品に関係ない質問にも踏み込んで説明しようとする人がいる。勝手に関連部署に問い合わせたり、インターネットなどで勝手に調べ、その内容をそのまま伝えたりしてしまう。それがどれほど危険なことか、わからないのである。

 案内した内容が間違っていた場合は、もちろん自社の責任になってしまう。もし、それが深刻な事故につながった場合には、訴訟に発展してしまう可能性がある。

 正しかったとしても問題だ。ネット情報を「自社が内容を保証した」ことになってしまうからだ。やはり責任問題になる。

 また、こうしたトラブルでは、お客さまは激高していることが多い。もし、そのクレームを案内した本人が受けて「カスタマーハラスメントだ」と決めつけてしまったら企業イメージをも揺るがす事態になりかねない。

 ところが該当のオペレータには、その危険性について何度、説明してもわかってもらえない。「顧客満足のためだから」と言い返されてしまう。本人が「それがサービスだ」と信じ込んでいるから、指導してもその場限りで、何度でも繰り返すのである。

 行き過ぎた応対は、クレームにつながり、時に事故にもなる。カスタマーハラスメント対策のためにも、まずコンタクトセンターの側で、企業の責任範囲やコンプライアンスなどついて、オペレータ教育を徹底して環境を整備することが重要だ。

PROFILE
多和田 元
Receptech代表。報道記者として取材・編集部門を経て、コンタクトセンター部門へ。オペレータ、SV業務と同時にシステムも担当。現場経験を生かした新しいシステムの構築や、カスタマーハラスメント対策などに長年取り組んでいる。

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会員限定2026年04月20日 00時00分 公開

2026年04月20日 00時00分 更新

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