コラム
第16回
コンタクトセンターには、時に、とてつもない電話が寄せられる。季節のせいにしてはいけないが、やはり春先に多い。
「『パンの耳』の意味とは、何でしょうか」。電話を取るなり、そう聞かれて面食らった。一瞬、頭の中を、荘子の「無用の用」などの哲学的な命題が駆け巡ったのだが、ご質問の主旨は、「食パンについている耳」そのものについてだった。
長年の顧客であることもあり、こちらは言葉を扱う仕事なのだから、と、業務外ではあるが、会話を続けることにした。
食パンの「縁」という意味であれば、織物などの縁の厚い部分も「耳」と呼ぶ。江戸時代には、貨幣の縁の厚い部分もそう呼んだ。過不足なく用意するという意味の「耳をそろえる」という言葉も、「端をきっちり重ねる」というのが語源である。
だが、「食パン」にだけ、何か歴史的な経緯があるのかも知れない。念のために調べてみると、これがちょっと面白い。日本で「食パン」と呼ばれるものは、仏では「パン・ド・ミ」と呼び、「パンの耳」と響きが似ている。しかし、仏語では「ミ」は、内側の柔らかい部分のことだという。すると、それは「柔らかい部分を食べるパン」であり、「パンの耳」と「パン・ド・ミ」とは、響きは似ていても対照的な部分を指すのだぞ……などと、自分がつい脱線してしまった。
もっとも、そこまでは雑談はできないので、前段の「縁」のついてのみ、ご説明した。そんなやりとりも、時にはちょっと楽しいし、お客さまとのコミュニケーションは、自社のファンを増やすことにつながる。
だが、コンタクトセンターで「脱線」は、あくまでも世間話にとどめておかなければならない。クレームにつながりかねないし、責任問題も生じるからだ。
オペレータの中に、商品に関係ない質問にも踏み込んで説明しようとする人がいる。勝手に関連部署に問い合わせたり、インターネットなどで勝手に調べ、その内容をそのまま伝えたりしてしまう。それがどれほど危険なことか、わからないのである。
案内した内容が間違っていた場合は、もちろん自社の責任になってしまう。もし、それが深刻な事故につながった場合には、訴訟に発展してしまう可能性がある。
正しかったとしても問題だ。ネット情報を「自社が内容を保証した」ことになってしまうからだ。やはり責任問題になる。
また、こうしたトラブルでは、お客さまは激高していることが多い。もし、そのクレームを案内した本人が受けて「カスタマーハラスメントだ」と決めつけてしまったら企業イメージをも揺るがす事態になりかねない。
ところが該当のオペレータには、その危険性について何度、説明してもわかってもらえない。「顧客満足のためだから」と言い返されてしまう。本人が「それがサービスだ」と信じ込んでいるから、指導してもその場限りで、何度でも繰り返すのである。
行き過ぎた応対は、クレームにつながり、時に事故にもなる。カスタマーハラスメント対策のためにも、まずコンタクトセンターの側で、企業の責任範囲やコンプライアンスなどついて、オペレータ教育を徹底して環境を整備することが重要だ。