コラム
第155回
保険会社のホームページのFAQを読んだところ、保険金の請求ができるかも知れないと思ったため、同社のコンタクトセンターに電話した。条件に適合する特約に加入していないため、保険金支払の対象にはならないと言われた。まるで、特約を加入していない自分が悪いような言い方だったので、ひどく気分を害した。こちらに非があるかのようなオペレータの言い方が気に入らないという内容のクレームを言ったら、カスハラ扱いされるのだろうか。
住んでいる市区町村で、とある手続き方法を知るためにホームページを閲覧し、念のためにコールセンターにも確認した。アドバイスの通り必要書類をそろえて、窓口に出向くことになった。ところが、実際の窓口では、提出書類の準備不足を指摘された。忙しい仕事の合間に窓口に行ったにもかかわらず出直す必要が生じた。このようなとき、素直に納得できるだろうか。ホームページの記載事項、コールセンターでの案内などの経緯を窓口で説明して、簡単には納得できないことを主張するだろう。理解できる説明を求めていると、居座りと判断されて、カスハラ扱いを受けるかも知れない。
カスハラとクレームの間には、グレーゾーンがある。カスハラが注目されている今、コールセンターや窓口で納得できない状況になったときでも、我慢して諦めるほうがいいのだろうか。淡々と事情を説明しても、こちらの意図は通じない気もする。
サービスや仕組みの複雑さ、ストレス社会、インターネットやSNSの影響で顧客が持つ情報が増えて顧客の意識が変化しているなど、さまざまなことを背景にカスハラが増えているのだろう。カスハラが増加している現状を踏まえ、企業や自治体では法的措置や断固とした姿勢で応じるような対策が進められている。もちろん、カスハラは良くないし、カスタマーサービスの現場で働く人々を守るための活動に異論はない。
しかし、企業や自治体の仕組みに原因があったり、担当者の誤解を招く表現や説明不足によって不満を助長するケースもある。それなのに、顧客の声を機械的に和らげてしまうツールで対策を終えたり、顧客第一主義の行き過ぎなどと分析してしまうのも的外れだ。感情解析を用いればカスハラを自動的に判定できるわけでもない。加えて、カスハラとして扱われることを懸念した顧客が委縮し、必要な説明をしなくなったり、共感を求めることを諦めてしまう状況も好ましくない。企業として、不具合が生じた原因や対策を追求することができず、サービス品質が低下していくことが懸念される。
カスハラ対策は、注目のトピックである。先行する取り組みに関する事例の収集や、自社での取り組みの検討が進められている。オペレータがカスハラを認識した際の対応や、エスカレーション時の対応に関するマニュアルの作成やトレーニングの実施、さらには悪質なカスハラに対する法的手段についても検討が進められている。カスハラは、顧客、企業や自治体のいずれか一方だけが原因ではなく、それぞれの要因が複雑に絡み合った結果として発生する。そのため、個人、企業や自治体、そして社会全体で意識改革や仕組みの改善が求められる。
2025年02月20日 00時00分 公開
2025年02月20日 00時00分 更新