市界良好 第156回

2025年4月号 <市界良好>

秋山紀郎

コラム

第156回

特殊詐欺から身を守る

 警察白書によると、令和6年の特殊詐欺(電話をかけるなどして対面することなく信用させ、指定した預貯金口座への振込み、その他の方法により不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪の総称)の認知件数は2万987件(前年比110.2%)、被害額は721億5000万円(前年比159.4%)である。また、この統計とは別に、SNS型投資・ロマンス詐欺という集計がある。SNS等を通じて対面することなく交信を重ねるなどして、金銭等をだまし取る詐欺が該当する。認知件数は1万164件(前年比264.3%)、被害額は1268億円(前年比278.6%)というから著しい伸びだ。合計すると1日に約5億5000万円の被害が発生している。私にもフィッシングのメールは毎日届くし、犯罪の脅威は至るところに潜んでいる。

 つい先日、少しまとまったお金をおろす必要があったため、平日に金融機関に行く時間を取り、ギリギリになったが窓口に駆け込んだ。現金引き出しの専門用紙に金額を記入して、窓口に提出した。案の定、現金の使用目的を聞かれたので、誰かに頼まれた訳ではないと言いながら、他の金融機関に移すと言って営業を掛けられるのも面倒だと思ったので、タンス預金と言ってみた。普通に受理されて、番号札を渡された。

 しばらくすると部屋へ案内された。現金渡しだから個室なのかと思いながら部屋に入ると私服警察官がいた。確か生活安全課と言っていた。金色の警察バッジが目に飛び込んできた。本物の警察官である。ずいぶん手厚いチェックだなと思いつつ質問に回答していった。しかし、警察官が言いたいことは振り込め詐欺のチェックではなく、「今、強盗が増えている。現金の引き出しと保管は犯罪に遭う可能性があるのでやめてほしい」という内容であった。私から丁寧に事情を説明したが、まったく納得してもらえない。次の予定が近づく中、声を荒げながら、民間人の自由を奪うなと言わんばかりに私も強く主張した。結局、その場で家族に電話して、スピーカーフォンで警察官と話をしてもらうことになった。いろいろなことを根掘り葉掘り聞かれた。私の主張が首尾一貫していたためか、ようやく警察官が上司の許可を得ると言って部屋を出て、その後、現金引き出しが許された。

 たまたま特殊詐欺か何かの事件があったようで、警察官がその金融機関に足を運んでいたそうだ。そこに私が現金の引き出しをしようとしたから、何のキャンペーンか知らないが、引っかかった格好だ。結局、受付時間を大きく過ぎてしまったが、窓口の人は対応してくれたし、申し訳ない顔をしていた。金融機関は警察に協力しなければならないのだろう。でも、30分間の押し問答は最悪の顧客体験で、まるで冤罪を晴らすような気分だった。今でも密室での女性警察官の鋭い眼光と小柄な男性警察官が横から別の切り口で割り込んで来る、まるで取り調べのような光景が頭から離れない。

 ハンドバッグを肩から下げて街中を歩くと、ひったくりが生じるので、ハンドバッグを持たずに街を歩いてほしいと言っているようなものである。世の中から現金をなくしたって犯罪は消えない。日本の警察は何をやっているのだろうか。

PROFILE
秋山紀郎(あきやま・としお)
CXMコンサルティング 代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

2025年03月20日 00時00分 公開

2025年03月20日 00時00分 更新

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