コラム
第154回
厚生労働省の「令和6年版 労働経済の分析」によると、2010年代以降の人手不足は「長期かつ粘着的」となっており、相当に広い範囲の産業・職業で生じているという。たしかに「コールセンター白書2024」でも、センターの運営課題のトップは「スーパーバイザーの採用・育成」(57.0%)、次いで「オペレータの採用・育成」(54.4%)となっており、人材不足が課題の上位を占めた。コンタクトセンターのIT分野においても人材不足が深刻になっている。エンジニアがいないため、システム提案ができないなどの問題も見られるようになった。
人材不足を補う手法として外部委託があるが、プロジェクト管理を外部に委託してよいのかを考えたい。プロジェクトとは、設定された目的や目標を期限内に達成するための活動だ。CRMシステム導入、音声基盤クラウド化、FAQシステムリプレース、音声ボットの導入など、大小さまざまなプロジェクトがコンタクトセンターにあると思うが、その管理は誰が実施しているのか。
プロジェクト管理者を置かないケースも見られる。ユーザー部門とソリューションベンダーだけでプロジェクトを進める形態だ。しかし、これは危険である。クラウドサービスを利用した場合、開発を伴わなくとも設定という作業が生じる。この設定は、要件定義と同じであり、簡単な作業だと思わないほうがよい。プロジェクト管理者を置かなければ、導入期間が長引いて、中断してしまうこともある。PoC(概念実証)が成功しなかったケースでは、ソリューションに原因があるのではなく、プロジェクト管理に問題があったということもある。
プロジェクト管理ができる人材が社内にいない場合、外部に委託するケースもあるだろう。コンサルティング会社などには、プロジェクト管理のノウハウや経験が豊富な人材が多い。また、社内政治や組織内の利害関係に縛られず、プロジェクトを公平かつ客観的に進められる。過去の成功事例を適用したり、論理的な資料作成と整理によって、問題解決のスピードを上げたりすることが可能となる。しかし、導入するソリューションの特性や難易度、ユーザーの成熟度などでプロジェクト計画は異なる。また、課題の優先順位の付け方やリスクの見極めも重要だ。つまり、プロジェクト管理のためには、コンタクトセンター業界の専門知識がなければならない。音楽に疎い人に指揮者は務まらないのである。
また、外部委託を繰り返すことで、自社内でのプロジェクト管理能力を持つ人材が育たないケースに気を付けなければならない。プロジェクトの範囲が変わっても同じ委託先を何人も利用していないだろうか。こうなると、外部委託先に社内事情を過度に掌握され、長期的に外部への依存体制が固定化し、そこから脱却できなくなる。
やはり、できればプロジェクト管理は社内リソースで賄うべきだ。もし、外部委託するなら、コンタクトセンター業界の専門知識に加え、プロジェクト実施中に、厳しいことや問題提起を積極的にしてくれる存在でなければならない。外部委託されたプロジェクト管理者の重要な任務は、クライアント企業のプロジェクト成功なのである。
2025年01月20日 00時00分 公開
2025年01月20日 00時00分 更新