コラム
第16回
最近「させていただく症候群」という言葉が生まれるほど、「〜させていただく」を多用する人が急増していて、とても気になっています。
先日、あるセミナーに参加した際、司会の方が冒頭のたった1分の間に多発していました。
「本日司会を務めさせていただきます、鈴木と申します。まずお手元の資料について、確認させていただきます。不足がございましたら、座席後方にて配布させていただきますのでお申し出ください。それでは添付の書類についてご説明させていただきます。それでは代表の中村様をご紹介させていただきます」
さらに、次に出てきた代表の挨拶が「この度、〇〇代表という大役を務めさせていただきます中村です」と、これまた「させていただく」です。
元来この「〜させていただく」の適切な用途は、自分の行動が相手の許可を得て行われる場合の謙譲のニュアンスを含む言葉です。しかし、いったい誰に対してへりくだっているのか、誰に対して許可を求めようとしているのかまったくわかりません。もしかしたら、自分を指名してくれた誰かに対して感謝の気持ちを込めているつもりなのかもしれませんが、この場合は、いずれも
「本日の司会進行を務めます鈴木です」
「〇〇代表という大役を務めます中村です」
とへりくだることなく自己紹介すれば良いのです。
また「来週、お休みさせていただきます」という言い方もよく耳にします。たしかに休暇に許可は必要ですが、これは押しつけがましく、くどい印象を与えます。「〜させていただく」を使わなくても、「お休みをいただいてよろしいでしょうか」と表現した方がずっと敬意が伝わります。
前回お伝えした「のほう病」と、この「させていただく症候群」を使わずに、司会進行、会議における発言をするとこのようになります。
いかがでしょうか。「のほう」や「させていただく」を使わないとすっきりとした心地よい言い方になります。
数回にわたり、言葉づかいの誤用や言葉癖をご紹介してきました。本来こういった言葉づかいは家庭で教えるべき事柄ですが、すでに親の世代も正しい言葉が使えるのかあやしくなってきた現代においては、やはり共に働く上司や先輩が、自社の威信をかけてしっかりと指導しなければならないと思うのです。
誤った言葉、見当違いの言葉を使っていると、「言葉を知らない人」という評価を下され、その人自身、ひいては会社全体の印象の悪化につながってしまいます。心を配り、美しい言葉を話すこと、正しい日本語を話すことが、その人の印象を大きく左右します。言葉はそれほど大切なものだと認識して、ご自身はもちろん、後輩や部下にもご指導いただきたいと思います。
2024年08月20日 00時00分 公開
2024年08月20日 00時00分 更新