本誌記事 ケーススタディ インターネットイニシアティブ(IIJ)

インターネットイニシアティブ(IIJ)

カスタマーサクセスとサポートが“強力タッグ”
ミッション/ビジョン重視型の理想的組織運営

カスタマーサクセスとカスタマーサポートの関係は、同じ顧客に相対しているにもかかわらず、分断や使用するナレッジの相違など課題も多い。モバイル通信サービス「IIJmio(アイアイジェイミオ)」を展開するインターネットイニシアティブ(IIJ)は、従来のカスタマーサポート課をカスタマーサクセス課に改称。関連会社が担うサポート業務と強力に連携し、一貫した顧客体験の提供を図っている。

 個人向けモバイル通信サービス「IIJmio」を展開するIIJは、カスタマーエクスペリエンス(CX)向上を目的に、2019年ごろからカスタマーサクセス(CS)業務に取り組み始めた。2023年には部門名をカスタマーサポート課から、カスタマーサクセス課に変更。現在は、CSとカスタマーサポートが連携したチームとして顧客を支援している。なお、サポートは、グループ会社のIIJエンジニアリングに委託。電話やメール、チャット(有人、AIボット)、FAQとさまざまなチャネルを駆使している。

 IIJ MVNO事業部コンシューマーサービス部カスタマーサクセス課 課長代行の野村梨絵氏は、同社のCSの定義について、「サービスの満足度向上に加え、顧客が困らずに使い続けられる体験を設計すること」と説明する。具体的には、トップダウンで策定された「IIJmioミッション」を具現化するために各部門の活動指針を設定(図1)、メンバー1人ひとりに至るまで徹底されている。

図1 IIJmioのミッションを担当者ごとに落とし込んでいる
図1 IIJmioのミッションを担当者ごとに落とし込んでいる

 「IIJ、IIJエンジニアリングが同じ方向を向いてこそ、適切な顧客体験が提供できる。そのために活動指針(図2)も作成しました」(野村氏)

図2 CSとカスタマーサポートの活動指針
図2 CSとカスタマーサポートの活動指針

 指針づくりの際は、IIJエンジニアリングと協議を重ねた。IIJエンジニアリング運用本部コンシューマビジネス課 米内由美氏は「サポート部門全体にも考え方が浸透するよう、行動指針をさらに具体化し、現場のオペレータ向けの行動指針も作りました」と説明する。

 カスタマーサポートとCSは、同じ顧客に相対しつつも行動指針が揺らぐなど、分断が課題になるケースも多い。同社では、サポートとサクセスを分断せず、統一感あるCX戦略の浸透を目指している。

IIJ MVNO事業部コンシューマーサービス部カスタマーサクセス課の野村梨絵課長代行(左)、IIJエンジニアリング 運用本部 コンシューマビジネス課 米内由美氏
IIJ MVNO事業部コンシューマーサービス部カスタマーサクセス課の野村梨絵課長代行(左)、IIJエンジニアリング 運用本部 コンシューマビジネス課 米内由美氏

NPSとCESで測定する
「サクセス」の度合い

 顧客体験を高めるアプローチとして、KPIは「推奨度平均(NPS)」「CES(カスタマー・エフォート・スコア:顧客努力指標)」「(顧客)応対満足度」を設定している。

 NPSは年1回のアンケートで0〜10点の平均点を測定し、8.0点以上を目標としている。対象は、約130万回線のうち、メールマガジンを受信しているユーザーだ。CESは2021年に導入。サポートを受けたすべての顧客に対し、苦労の程度を11段階で評価してもらう。一般的にCESは「数値が低いほど努力の度合いが低い=高い評価」とすることが多い。しかし、同社ではユーザーと部門内でのわかりやすさを重視し、数値が大きいほど高得点とし、スムーズな体験を意味する。こちらも同じく8.0点以上が目標だ。

 CESの設問には、「FAQがわかりにくい」「電話窓口につながりにくい」などの選択肢を用意し、スコアとの相関を分析することで改善ポイントを明確化している。野村氏は、「満足度は高いが、CESは低いといったケースもあります。オペレータの対応だけでなく、FAQやチャットボットまでも含めた“サポート全体”の設計改善を進めています」とその狙いを語る。

 また、オペレータの評価では、HDI-Japanの格付け調査に準じた評価軸を採用している。問題解決力のみならず、共感や寄り添いに関する“質問力”、“対話力”を強化する目的で、フィードバックや研修を実施。加えて、アンケートには「最高評価の『感動した』を新設しました。「とても満足」よりも上の評価を設けることで、感情価値のある応対を目指す文化を醸成しています」(米内氏)。

 従来は、IIJのカスタマーサクセス課が各アンケート調査とそれに伴う顧客の声(VOC)分析などを主導してきた。しかし、2024年からは他部門のマネージャーにVOCを共有し、現場ごとに優先課題を選定して、改善に取り組む“全社推進型CS”に移行。これにより、CSを会社全体の文化として根付かせることを推進する。現場のメンバーがより自発的に行動するよう、「応対品質改善のために、特定のサービスや問い合わせへのナレッジの改善といった、能動的な目標設定を図り、自律的な意識の芽生えを促しています」(野村氏)。

 今後の目標は、さらなるVOCの活用、HDI格付け調査での三ツ星の取得、オペレータ間のスキルギャップ解消などだ。スキルギャップについては、「FAQの自動表示などにより、新人とベテランの差を埋める」(米内氏)考えもある。「IIJmioを、ユーザーが“困らずに使い続けられる”サービスとして成長させる。そのために、CSとサポートが一体となり、能動的な改善を重ねていきます」(野村氏)。

(月刊「コールセンタージャパン」2025年7月号 掲載)

2025年06月20日 00時00分 公開

2025年06月20日 00時00分 更新

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