本誌記事 インタビュー jinjer 廣田 達樹 氏

インタビュー

“トラブルの火消し役”から脱却する!
専門性を高め「経営の中核」を目指す

クラウド型人事労務システム「ジンジャー」を提供するjinjerに今年4月、新役職「CCO(最高顧客責任者)」が設けられた。このポストに就任したのが、HubSpot日本法人の元代表などグローバルテック企業での経験を持つ廣田達樹氏だ。廣田氏の考えるカスタマーサクセス(CS)、jinjerのCS戦略を聞いた。

廣田 達樹 氏
jinjer
CCO(最高顧客責任者)
廣田 達樹
PROFILE
2013年VMware入社。2016年Google Asia Pacificで日本・韓国・東南アジア市場を担当する本部長に就任。2021年HubSpot Japanの日本法人代表に就任。国内市場の事業統括とユーザー・パートナーとの連携強化を牽引。2025年より現職。営業部門全般を管掌しマーケティング戦略の立案と実行、CS体制の構築を通じ顧客支援を担当。

──役職に込めた狙いと就任の背景をお聞かせください。

廣田 jinjerには、CCOという役職はありませんでした。しかし、新体制のもと“第二創業期”に入り、顧客満足度の向上と事業拡大は急務です。顧客体験を軸に事業を本格的に推進したいと考え、CCOの創設を提案しました。日本法人代表を務めていたHubSpot Japanでは、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスの3部門を“フライホイールチーム”と呼び、シームレスな顧客体験を実現することで、事業を成長させる考え方が徹底されていました。このビジネスモデルの優れた点を、jinjerにもぜひ取り入れたいと、セールスやCSなどの顧客接点部門を一体化し、シームレスな顧客体験を提供することで事業の成長を加速させます。

──日本ではCSが“サポートの延長”と見なされる傾向にあります。

廣田 日本のCSは“火消し役”にとどまっている印象です。担当者がオンボーディングからアップセル、サポートまで1人で多くの役割を担っている。その結果、短期的に緊急度の高いサポート対応に追われ、属人的な組織になっているためでしょう。一方、欧米企業ではCSは顧客の“成果達成”を支える戦略部門と位置付けられ、機能や役割がプロセスごとに細分化されている。いずれの役割も、顧客の目標を理解し、達成に向けて積極的に関わることで、自社のLTV(顧客生涯価値)向上につなげるミッションを持っています。そこで当社も、CS組織を再編しました。属人的な対応から脱却するべく、オンボーディングやアダプションといった機能ごとに役割を分けた専門のチームを設けました。

──CSの役割を細分化した意図は。

廣田 HubSpot Japanで体感したのは、お客様の成果に本気で向き合うには、専門性に基づいた分業が不可欠ということです。例えば、オンボーディングは「利用できるように設定して終わり」ではなく、運用が組織に定着し、プロダクトの価値が浸透してこそ完了と言えます。しかし、このプロセスを1人の担当者ですべて担うのは難しい。ですから、CS組織を変更して()プロセスごとに最適な人材を配置し、お客様と並走する体制を強化しました。チームごとのKPIも明確にしています。

図 jinjer CSチームの変化
図 jinjer CSチームの変化

 同時に、顧客プロファイルも見直しました。当社のプロダクトは、人事業務の煩雑さを解消する強みから、雇用形態が多様な企業を中心にプロダクトを提供しています。そのため、お客様には中堅・中小企業も多く、こうした企業では、総務担当者が人事関連の業務を兼務していることも少なくない。そこで、多忙で複数の業務を兼務している総務部門の方にも使いやすいように、有人対応の整備のみならずFAQといった自己解決型コンテンツの構築を戦略的に進めます。ロー/テックタッチ領域を拡充しつつ、ハイタッチが向いている規模の顧客向けにはその都度、適した伴走支援を継続します。

──人事系SaaSソリューションというプロダクトゆえの課題は。

廣田 人事労務など、人事の基盤を支えるシステムです。それゆえ“できて当然”と捉えられる機能も多いはず。こうした状況下では、付加価値の提供が問われます。CSも単に操作方法を教えるだけでなく、業務全体を俯瞰し、業務効率や制度変更への対応など、顧客ごとの課題解決に踏み込む必要があります。そのためにもCSソリューションとして「Gainsight」を活用し、利用状況の可視化、ヘルススコアの管理を行っています。

重要なのは
“顧客への関心の高さ”

──CS人材の育成については。

廣田 CSの従事者とは「お客様にどれだけ興味を持てるか」が重要です。業務課題を理解し、改善策を提案できなくてはいけません。そのために、CSの各チームに求められるスキルを定義し、採用から育成に反映しています。営業やサポートなど、社内での異動も推進し、中長期的なキャリアも確立できるように推進したいと思います。

──今後のCS戦略については。

廣田 まずは、CSを「顧客の成果を共につくるパートナー」として確立したい。そのためにも、各チームの業務と、KPIを明確化にして、一貫した顧客体験を提供する体制構築を図ります。テックタッチでも、顧客満足度が高くなる仕組みを目指すなど、LTV向上とプロダクト開発の投資に貢献できる好循環を生み出します。最終的な理想は、CSという概念が特定部門の機能ではなく、お客様と長期的な信頼関係を築き、プロダクトの価値の最大化につながる。すべての顧客接点が一体となり、価値を届け続ける。その循環の中心に、CSが存在する構想です。CSを経営の中心に据える組織づくりを実現していきたい考えです。単に「製品が使われる」ことにとどまらず、「顧客が成果を上げる」といった状態を目指すには、あらゆる部門が一体となったコミュニケーションが重要です。その中心で、お客様の声を受け取り、プロセス全体を最適化するCSの存在価値は今後、高まっていくはずです。

(月刊「コールセンタージャパン」2025年8月号 掲載)

2025年07月20日 00時00分 公開

2025年07月20日 00時00分 更新

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