MIMIGURI 安斎 勇樹 氏

2024年5月号 <インタビュー>

安斎 勇樹 氏

MIMIGURI
代表取締役 Co-CEO
安斎 勇樹

(Yuki Anzai)東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。東京大学大学院 情報学環 客員研究員を兼務。人と組織の創造性を高める経営・組織文化のデザイン方法について研究している。主な著書に『問いのデザイン』『問いかけの作法』『パラドックス思考』などがある。

経営を変え、進化させる「問いかけ」のススメ
従業員と顧客のロイヤルティを高める対話のキモ

人材マネジメントの「あり方」が大きく変わりつつある。終身雇用が崩壊した今、上意下達をベースとした従来のマネジメントでは、若い人材はついてこない。顧客対応もまた同様に、企業側の主張や訴求を鵜呑みにする消費者はほとんどいない。対社員、対顧客の双方で「問いかけ」をベースにしたコミュニケーションが求められる。

──経営・組織文化のデザイン方法を研究し、著書などでも「問いかけ」の重要性を訴求されていますが、その背景を教えてください。

安斎 価値観の多様化に伴い、さまざまな関係において、多くの認識のズレが生じていると感じます。VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性の頭文字をとった、将来の予測が困難な状況を表す造語)と言われる不確実な時代では、同じ志向を持つはずの人間が集まった会社においても、共通課題を設定し、目標やビジョンをそろえることはひと苦労です。

 認識のズレを確認したうえで本質を追求し、共通課題を言語化するには、対話が欠かせません。その対話では、「問い」がポイントになります。例えば会議においても、アイデアを引き出す上手い問い──デザインされた問いがあるかといったファシリテーション次第でその質は変わります。

──具体的な「上手い問い」「問いのデザイン」とは。

安斎 課題に対する答えを早急に出そうとするのではなく、問題の本質を捉え、やり取りを重ねてゴールに導くこと。例えば会議で、「意見はありますか」と問いかけるのではなく、「今のプレゼンは100点満点中、何点だと思った?」という問いに変えてみてください。「40点」と答えた人には減点の理由をたずね、「90点」と答えた人には評価したポイントを聞きます。問いを重ねて、各自の捉え方を聞き出し、課題や方向性を明確にしていくのです。最初から、自分の考えをきれいに言語化できる人は、そう多くありません。情報整理や言語化には時間がかかります。問いは、スポットライトのように当て方次第で、出てくる答えが変わります。相手が答えやすい問いを投げかけることが、アイデアを引き出すポイントです。

耳を傾け解決策を探る
「脱・ダメ出し」の方法論

──コンタクトセンターは「受け身の組織」と言われます。多忙なあまりマニュアルに沿った業務に追われ、それを逸脱する新しいアイデアが出にくいともいわれています。

安斎 さまざまな企業のコンサルティングを行った経験から、内発的動機付けを求めない人は、「提案しても聞いてもらえるはずがない」と諦めている場合が考えられます。この場合は、リハビリが必要です。問題提起に耳を傾け、ともに解決案を探る姿勢を示しましょう。出てきた提案に対し、単にダメ出しをするのではなく、一番やりたかったことは何かをたずね、実現するためにはどう提案すればよいかをアドバイスする。「自分の思う仕事ができるかもしれない」と感じれば、提案書を一生懸命に書き直すものです。たとえ提案が通らずとも、自分が一番やりたいと思っていることに耳を傾けてもらえたということが、自己肯定感とモチベーションにつながります。

 若い層は、スマートフォンの出現などから、SNSなど匿名でのつながりを持つことが当たり前な環境で育ち、社会に出ました。そのため、アニメなど、自分の関心事と近い興味を持つ人たちとのコミュニティ形成はとても慣れています。しかし、企業のような見ず知らずの場所が、自身を受け入れてくれるとは思っていません。自分が大事にしていること、こだわりといったものを開示するのは怖く、抵抗感を持っています。しかしこれも、問いかけ方ひとつで変わります。こんなに手間がかかるのかと思うかもしれませんが、個々人の大切にしている思いなどを引き出し、光を当て続けて承認することで、仕事への向き合い方も変わってきます。

トップダウン型の意思決定を見直そう
コミュニケーションにコストをかける

──マネジメントのスタイルが根本的に変わりそうですね。

安斎 物を作れば売れる時代は過ぎ、顧客が企業の信条などに共感して物を買う時代になりました。従来の、トップが方針を打ち出し、部下は何も言わずに従う「トップダウン型」の意思決定では、その変化についていくことは難しい。コンタクトセンターのような労働集約型かつ、マニュアルを重視するタイプの組織は、効率的に物事を進める面では、トップダウン型が効果を発揮するかもしれません。しかし、今は売り手市場の大転職時代。従来よりもコミュニケーションコストをかけなければ、人材を確保できません。なかでも、Z世代をはじめとする若い層は、トップダウン型の経営に違和感を持ちがちです。自分の意見に耳を傾けてくれない会社や、成長の機会を与えてくれない会社は早々に見切るでしょう。

 社長などの代表者が企業の方向性を示しつつ、社員にも目標や夢があることを認め、それが叶うように支援する。従業員の自己実現を見据えつつ、事業を推進する高度な経営とマネジメントが求められています。

──コンタクトセンターのSVに代表するように、現場リーダーの負荷増大が懸念されそうです。

安斎 旧来のマネジメントが、パーソナルな部分に関心を向けて来なかった弊害で、最初は、個々に目を向けることにハードルを感じるかもしれません。しかし、一度やる気に火がつけば、自発的にアイデアを形にするようになり、管理がむしろ楽になるはずです。

──具体的なコツを教えてください。

安斎 ほとんどの管理者は、部下の仕事の振り返りが圧倒的に足りていません。例えば査定の際も、目標が達成できたか否かのみを評価するといった一方的なやり方では、自発的な成長は難しい。先ほどの会議の際の問いかけと同様に、「自分に点数をつけるなら」といった問いを部下に投げかけるのも良いでしょう。そして、たとえ目標が達成できていなくとも、何を考えて業務にあたっていたのかを聞いてみる。「何がしたかったのか」「次に何をしたいのか」、この2点を聞くのみでも個々人の目標や、やりたいことの把握につながります。個人の内発的動機と部署のKPI、KGIをつなげ、どうすべきかを導けば、自発的な行動を促せるでしょう。

──個人を変えるにはまず、マネジメントが変わるべきということですね。

安斎 カルチャー改革を進める企業が増えています。“イノベーションという果実”が実らないのは、“土に問題がある”という気づき自体はよいと思います。しかし、土を丸ごと変える発想は危険です。現状否定ではなく、古いものも活かすという視点も必要です。「ここがもったいない」「このポテンシャルを引き出したい」という視点で時代に合わせつつ、その企業の強みを生かしたカルチャーを再構築するとよいでしょう。

効果的な「時間軸をズラした問い」
内在する感情を引き出す

──コンタクトセンターでは、組織マネジメントだけでなく、顧客対応でも「問い」が重要になっています。顧客のインサイトを引き出す問いかけ方のポイントを教えてください。

安斎 時代が変わっても、コンタクトセンターは「顧客の声をしっかりと把握する」ミッションは変わらないはずです。顧客への問いかけは、そのためにも、もっと成熟しなければならないのではないでしょうか。人(消費者、顧客)には矛盾した感情が内在することがあり、クレームで怒っている顧客のなかにも、怒りの感情と「この商品が好き」とう感情が混在しています。これらを上手く引き出すために、顧客へ問いかける際は、時系列をずらした質問の仕方をしてみましょう。「今」は不具合から怒りが生まれていますが、「過去」にはその商品を気に入る出来事があったはずです。今の状況を真摯に受け止めて謝罪をした後に、商品やサービスを利用するに至った経緯、利用した感想などを聞く。さらに将来、期待する事柄もたずねることで、経営に役立つ貴重な声を収集できるようになるでしょう。

(聞き手・荒木世理子)

イメージ写真
MIMIGURIの企業概要
設立:2021年3月1日
代表者:Co-CEO ミナベトモミ 氏/安斎勇樹 氏
本社所在地:東京都文京区本郷2-17-12
事業内容:経営/事業/組織/マーケティング/デザインなどに対するコンサルティング業務

2024年04月20日 00時00分 公開

2024年04月20日 00時00分 更新

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