<著者プロフィール>
筑波大学・神田外語大学客員教授。Global Manner Springs代表。慶應義塾大学卒業後、日本航空(JAL)の先任客室乗務員として30年間乗務。機内アナウンスに定評があり、JALの機内アナウンス指導クリニック創設者でもある。1987年、皇太子殿下・美智子妃殿下特別便に選出され乗務。現在、大学や医療機関、介護施設、官公庁や企業に講演や研修を行う。著書「JALファーストクラスのチーフCAを務めた『おもてなし達人』が教える“心づかい”の極意」(ディスカバー・トゥエンティワン)「幸せマナーとおもてなしの基本」(海竜社)
おもてなし教育の第一歩
「金太郎飴になりなさい」
江上 いずみ
仕事をするうえでも、プライベートな生活のうえでも、「笑顔」はとても大切なコミュニケーションツールですが、では視覚に障がいがある方にはどのように「笑顔」を伝えればよいでしょうか。
先日、視覚特別支援学校の生徒に講演をした際、最初に「Aの挨拶です」と言って「こんにちは」と暗くどんよりとした低い声で挨拶し、次に「ではBの挨拶です」と言って「こんにちは」とハキハキとした明るい声で挨拶をしてみました。
すると聴講している児童・生徒は「全然違う!」と、印象の違いをはっきり認識してくれました。平板な声で挨拶するのと、アクセントの強弱や抑揚をつけて、笑顔で話しているように挨拶するのとでは、印象はまったく違います。私はそのような声を“笑声”と呼んでいます。
「明るい“笑声”で挨拶されると、相手の笑顔が目に浮かびますね。皆さんも笑声でお話すると、相手を思うおもてなしの心がしっかりと伝わります」と話したところ、生徒の皆さんは「それなら私たちにもできる!」「私たちの笑声でだけで、相手の気持ちを明るくさせることができるんだ」──そう言ってとても喜んでくれました。そんな彼らの笑顔を見て、私自身もあらためて“笑声”の大切さを実感しました。
この記事をお読みになっている皆さんは、電話の取次ぎなど“声”を使うお仕事をなさっている方が多くいらっしゃると思います。電話も同様に相手の顔が見えませんから、「声」だけで皆さんの笑顔と誠意を伝えなければなりません。
ぜひ、電話が鳴ったら“笑声”の第一声で出ていただきたいと思います。
社員教育の第一歩は、「笑顔」「笑声」を含めた第一印象を高めることです。では、このように第一印象を良くするために、企業の理念やポリシーにのっとって社員教育をするケースが多いのは、なぜでしょうか。
JALではCA育成の新人研修で「100−1=99ではない」「100−1=0になる」と教育しています。
100名の社員のほとんどの人が身だしなみを整え、明るい表情と態度で接し、きちんとした言葉づかいで応対していたとしても、1人でもだらしない格好をしたり、暗い表情で笑顔もなく、ふてぶてしい態度をとったりしていたら、その企業のイメージは一瞬で悪くなってしまい、「100−1=99ではなく、100−1=0」になってしまうということです。
ですから私たちCAはよく「金太郎飴になりなさい」と指導されていました。どこを切っても同じ顔が出てくる金太郎飴。JALのどの飛行機に乗っても、同じような優しい笑顔で迎えられ、同じような素晴らしいサービスを受けられることはお客様にとってとても大切なことです。「金太郎飴になりなさい」は、社員1人ひとりがそういったおもてなしの心でお客様に対応していってほしいという会社の思いによるものです。
各々の個性を発揮したサービスが求められる場合ももちろんありますが、その根底にある相手への気遣いをすべての社員が大切にしてこそ、優しい空間が生まれてくるのだと思います。
2024年01月31日 18時11分 公開
2023年10月20日 00時00分 更新