元ファーストクラスCAの接客術“おもてなし力”の磨き方 第7回

2023年12月号 <元ファーストクラスCAの接客術 “おもてなし力”の磨き方>

江上いずみ

“おもてなし力”の磨き方

<著者プロフィール>
筑波大学・神田外語大学客員教授。Global Manner Springs代表。慶應義塾大学卒業後、日本航空(JAL)の先任客室乗務員として30年間乗務。機内アナウンスに定評があり、JALの機内アナウンス指導クリニック創設者でもある。1987年、皇太子殿下・美智子妃殿下特別便に選出され乗務。現在、大学や医療機関、介護施設、官公庁や企業に講演や研修を行う。著書「JALファーストクラスのチーフCAを務めた『おもてなし達人』が教える“心づかい”の極意」(ディスカバー・トゥエンティワン)「幸せマナーとおもてなしの基本」(海竜社)

「◯分後」ではなく「◯時◯分」──
常に先読みした『言い換え』で伝える心づかい

江上 いずみ

 「自分が得た情報をどのように人に伝えるか」はビジネスパーソンにとって大切なスキルです。例えば、お客様の命を預かって運航する操縦士にとっては、自分が得た「時間」の情報を「時刻」に変える「伝え方」が飛行の安全性に大きく影響してきます。

 航空機の運航にあたり、天候などの条件によって大きく揺れる可能性があるときは、機長が機内全客室に一斉に電話(内線)をかけます。これを「オールコール」と呼びます。その連絡をする際に、この「時刻」による情報共有がたいへん重要になるのです。

 「こちら、機長です。20分後に揺れはじめるので、それまでに片づけを終わらせ、カートを収納すること」というオールコールを機長が行った場合、それを受けることができるCAは全員とは限りません。サービス提供中のCAもいるので、電話を受けたCAは、他のCAに口頭で伝えることになります。

 機長がオールコールをしたのが15:07だったとします。その時刻を起点とした20分後は15:27です。しかし、電話を受けたCAが受けていないCAに伝えるときには、すでに数分の時間が経過していて、「〇〇先輩、20分後に揺れるそうです」と伝えた時刻が15:09になっていたら……。その先輩は、15:29に揺れがくると思ってギリギリまでサービスを続け、時間を見計らって片づけを始めます。機長が伝える揺れの予測は15:27ですから、その2分間というタイムラグの間に乱気流が襲ってきたら、カートは収納できておらず、CAやお客様がケガをして大惨事になりかねません。

 「20分後に揺れるって言ったじゃないか!」──15:07に20分後と伝えた機長の立場としては、そう考えて当然です。しかし伝聞で聞いたCAが、「15:09に、20分後に揺れがくると聞いたので、15:29までにすべて片づけよう」と考えても、あながちミスとは言えないでしょう。

 この行き違いは、機長がオールコールのときに、「20分後に揺れがくる」ではなく、時刻に変換して「15:27に揺れがくる」と情報を伝えることで防げます。機長が「時刻で伝えたほうが情報を徹底でき、確実に片づけを実施できるだろう」という配慮ができるかどうかがポイントです。その心づかいがあるかないかによって、「お客さまの安全」という航空会社にとって一番大切なものを守ることができるのです。

 他のビジネスでも同じです。取引先の秘書の方から連絡があり「30分後に弊社の社長が御社にお伺いいたします」と伝えてきた時刻が13:40だとします。その電話を受けてから、担当者に伝えるまでにはタイムラグが発生しますから、伝え方としては、「30分後に△△社の社長がいらっしゃる」と、「14:10に△△社の社長がいらっしゃる」では、どちらが伝言する相手への心づかいができているか、一目瞭然です。伝言を受けた人とのタイムラグによって混乱を生じさせないためには、時間ではなく時刻で伝えるべきなのです。

 「30分後」と言われたら、オウムのように「30分後」と伝えるのではなく、時刻に変換して伝えられることが、心づかいのできる人といえます。

イラスト

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年11月20日 00時00分 更新

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