<著者プロフィール>
筑波大学・神田外語大学客員教授。Global Manner Springs代表。慶應義塾大学卒業後、日本航空(JAL)の先任客室乗務員として30年間乗務。機内アナウンスに定評があり、JALの機内アナウンス指導クリニック創設者でもある。1987年、皇太子殿下・美智子妃殿下特別便に選出され乗務。現在、大学や医療機関、介護施設、官公庁や企業に講演や研修を行う。著書「JALファーストクラスのチーフCAを務めた『おもてなし達人』が教える“心づかい”の極意」(ディスカバー・トゥエンティワン)「幸せマナーとおもてなしの基本」(海竜社)
「相手の時間を大切にする」心づかいを持とう
江上 いずみ
これまで「表情」「態度」「身だしなみ」といった視覚からくる第一印象とともに、「挨拶」「言葉づかい」といった聴覚からくる第一印象もビジネスパーソンにとってとても大切であることをお伝えしてきました。このほか、相手に与える印象がまったく変わる「言い方」に、「少々お待ちください」があります。
皆さんがファミリーレストランや居酒屋で、「すみません。お水のお代わりください」と依頼すると、ほとんどの場合、「はい、少々お待ちください」という言葉が返ってくるのではないでしょうか。
しかし、日本航空ではそのような対応をしてはいけないと指導しています。機内を巡回しているとき、お客さまに「コーヒーください」と言われたら、「はい、かしこまりました。すぐにお持ちいたします」と答えるように徹底しています。
お客さまから「コーヒーをください」と依頼され、「少々お待ちください」と応じてギャレーに戻ってコーヒーを用意し、お客さまにお渡しするまでの時間「A秒」と、「はい、かしこまりました。すぐにお持ちいたします」と応じてギャレーに戻ってコーヒーを用意し、お客さまにお渡しするまでの時間「B秒」はまったく変わりません。にもかかわらず、「はい、少々お待ちください」と言われる場合と、「はい、すぐにお持ちいたします」と言われる場合では、お客様が受ける印象はまったく違うのです。
本当に、これは日本人の習性なのかと思えるほど、日常生活のさまざまな場面で「少々お待ちください」という言葉を聞きます。
お店で買い物をして「ラッピングお願いします」と依頼しても「少々お待ちください」、役所や銀行の受付で「○○届をください」とお願いしても、「少々お待ちください」と返ってくることが多いのではないでしょうか。
言い慣れている、聞き慣れていると言ってしまえばそれまでですが、第一声が「すぐにお持ちします」「すぐにご用意いたします」「すぐにお手続きいたします」になるだけで、相手に与える印象はまったく違うものとなり、事務的な応答から“誠意ある応答”に変わるのです。「待つ」とは本来、そのような言葉の後に出てくるはずです。例えば、次のような言葉です。
「すぐにご用意いたしますので、どうぞそちらでお待ちください」
「すぐにお手続きいたしますので、どうぞお掛けになってお待ちください」
もし、何らかの理由があって、本当にお待たせしなければならないときは、相手にはどの程度の時間をお待ちいただくか伝えることが望ましいのです。これは、相手の時間を大切にする心づかいとなります。
「本日はたいへん混んでおりまして、おそらく20分ほどお待ちいただくことになろうかと思います」
そう言われれば、「そうなんだ。じゃあ、その間に銀行に行ってこようかな」と、『20分』という時間の使い方を自分で考えて有効に使うことができます。
皆さんのお仕事の中でも、答える言葉を考えることで「相手の時間を大切にする」心づかいをしていただきたいと思います。
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