コラム
第10回
JAL機炎上事故にみる“内部コミュニケーション”の大切さ
新年が明けて、さあ原稿を書こうと机に向かった1月2日、何気なくつけていたテレビの画面から、私が30年間乗ってきた“鶴丸”の機体が大きな火に包まれて無残に崩れ落ちていく光景が目に飛び込んできました。思わずテレビの前で仁王立ちになっていたら程なく「乗客乗員379人無事脱出」という速報が流れました。
1984年にJALに入社した私は1985年8月12日に起きた御巣鷹山の事故で親友の同期を亡くしているので、この“乗客乗員全員無事脱出”は思わず座り込んでしまうほどの嬉しいニュースでした。
翌日から新聞、テレビ、ラジオなどから「乗客乗員全員無事脱出できた要因は何か、元JAL CAに聴く」という取材攻勢が始まりました。
海外も含めて多くのメディアは今回の脱出劇を“奇跡”と評していますが、CAが常日頃受けている厳しい訓練を思うと、私は「決して“奇跡”ではないと思います」と答えています。
CAは入社時に「サービス要員」としての訓練と「保安要員」としての訓練を約3カ月間受けます。
お客様に快適な空の旅をお楽しみいただけるよう食事や飲み物のサービス方法を習得する「サービス要員」としての訓練はもちろん大切ですが、やはりお客様の命を預かる仕事ですから「保安要員」としての任務はそれ以上に時間をかけて習得する必要があります。上空で火災が起きてしまったときの消火方法から、AEDの使い方や心肺蘇生法も学んで具合が悪くなってしまったお客様への救命方法を習得します。そして今回のような突発的な事故が起きたときにどうするべきか、実際に「モックアップ」と呼ばれる飛行機の模型を使ってその手順やお客様への声掛け、誘導、脱出指示を“体得”します。
こうした訓練は入社時のみならず、どれほどベテランになっても必ず年に1度、丸一日かけて「緊急避難訓練」を受けます。実技試験では大きな声が出ているか、適切な指示が出来ているかをチェックされ、筆記と実技の両方に合格しなければ即、乗務停止となりますから、CAはかなり緊張感をもってプレッシャーを感じながらこの訓練に挑みます。
私は今回の“全員無事脱出”の要因は3つあると思っています。一点目は、そういった日々の訓練によって得た自分の知識を信じて、担当するドアの開閉を決めるCA1人ひとりの判断能力。
二点目は「R3開けません」「L3ダメです」と自分の担当ドアの状況を大きな声で他のCAに伝える“コーディネーション”です。この声が飛び交うことにより、お客様をどちらに誘導すればよいか決めることができるため、この連携はとても重要だといえます。
皆さんのお仕事においても、社員1人ひとりがどのような仕事をするかはとても大切だと思いますが、それ以上に、互いの仕事を理解して連携を図ることが大きな成果を生み出しているのではないでしょうか。
次号では、今回の成功要因の三点目となる「乗客の協力」と、今後皆さんが飛行機に乗る際の心構えなどについて書きたいと思います。
2024年02月16日 00時00分 公開
2024年02月16日 00時00分 更新