元ファーストクラスCAの接客術“おもてなし力”の磨き方 第5回

2023年10月号 <元ファーストクラスCAの接客術 “おもてなし力”の磨き方>

江上 いずみ

“おもてなし力”の磨き方

<著者プロフィール>
筑波大学・神田外語大学客員教授。Global Manner Springs代表。慶應義塾大学卒業後、日本航空(JAL)の先任客室乗務員として30年間乗務。機内アナウンスに定評があり、JALの機内アナウンス指導クリニック創設者でもある。1987年、皇太子殿下・美智子妃殿下特別便に選出され乗務。現在、大学や医療機関、介護施設、官公庁や企業に講演や研修を行う。著書「JALファーストクラスのチーフCAを務めた『おもてなし達人』が教える“心づかい”の極意」(ディスカバー・トゥエンティワン)「幸せマナーとおもてなしの基本」(海竜社)

相手の思いを想像できる
ビジネスリーダーを目指そう

江上 いずみ

 前回、新人CAがお客さまの思いを想像して、“一歩先を読んだ気づき”ができるか否かによって、その後の成長が大きく異なることをお伝えしましたが、それは指導にあたるリーダーにも当てはまることです。

 私はチーフパーサーとして乗務していた頃、機内から見える富士山をお客さまに楽しんでもらいたいという思いから、こだわっていたことがあります。大阪など短距離路線では、シートベルト着用のサインが消えたらすぐにドリンクカートを出してサービスを始めないと、すべてのお客さまに飲み物が行きわたらなくなってしまいます。しかし、九州行きなどの便では、離陸18分後にお客様に富士山をゆっくり見ていただいてから飲み物サービスを始めても十分な飛行時間があります。

 チーフパーサーは左側一番前のドアを担当していますので、お客さまよりも早い時間から富士山が見え始めます。その光景を確認して、素晴らしい天候で、ぜひお客さまにも見ていただきたいような姿だった場合、次のようなアナウンスをします。

 「本日は快晴に恵まれて、間もなく皆さまの左手真下にたいへん美しく富士山がご覧いただけます。富士山の火口が見えるのは、福岡行きの本路線ならではの光景でございます。右手にお座りのお客さまも、左手の各ドアの窓からもご覧いただけますのでどうぞお楽しみください」

 このアナウンスが入ると、左側に座っていらっしゃるお客さまはもちろん、真ん中の座席の方も立ち上がってのぞき込み、右側のお客さまは席を立ち、通路を移動してドアの窓から富士山を眺めます。

「え〜、すごい!」「こんな富士山、見たの初めて〜!」
と嬉しそうに写真を撮るお客さまを拝見するのが私の密かな喜びでもありました。

 もし、この富士山上空を飛ぶときに、通路にドリンクカートが出ていたらどうなるでしょう。左側の方にはお楽しみいただけても、右側のお客さまはドリンクカートが出ているので移動などできません。ですから、飛行前のミーティングの際に、一緒に飛ぶCAたちにこのような指示をしていたのです。

 「離陸して18分後に富士山が見えるので、それまではドリンクカートを出さずに、ゆっくり客室を巡回して、お弁当を召し上がっているお客さまにお茶を差し上げるなどの対応をしてください。右側にお座りのお子さまには、左のドアのところに案内して富士山を見せてあげてくださいね」

 マニュアルには「離陸してベルト着用サインが消えたらドリンクカートを出して飲み物サービスをする」とだけ書いてあります。しかし、その路線特性を考え、その日の天候や見える風景を考慮したうえで、よりお客さまに楽しんでいただくサービススケジュールを考え、指示をするのもチーフパーサーとしての心づかいといえます。

 皆さんがさまざまな指示を出す際にも、ぜひ相手の思いを想像して臨機応変な指示ができるビジネスリーダーになっていただきたいと思います。

イラスト

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年09月20日 00時00分 更新

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