元ファーストクラスCAの接客術“おもてなし力”の磨き方 第4回

2023年9月号 <元ファーストクラスCAの接客術 “おもてなし力”の磨き方>

江上 いずみ

“おもてなし力”の磨き方

<著者プロフィール>
筑波大学・神田外語大学客員教授。Global Manner Springs代表。慶應義塾大学卒業後、日本航空(JAL)の先任客室乗務員として30年間乗務。機内アナウンスに定評があり、JALの機内アナウンス指導クリニック創設者でもある。1987年、皇太子殿下・美智子妃殿下特別便に選出され乗務。現在、大学や医療機関、介護施設、官公庁や企業に講演や研修を行う。著書「JALファーストクラスのチーフCAを務めた『おもてなし達人』が教える“心づかい”の極意」(ディスカバー・トゥエンティワン)「幸せマナーとおもてなしの基本」(海竜社)

相手の思いを想像して一歩先を読む!
ワンランク上のビジネスパーソンの資質

江上 いずみ

 新入社員を迎えて数カ月、そろそろ皆さんの会社に入社してきた新人さんたちも仕事に慣れてきた頃でしょうか。

 CAは入社して3カ月間、羽田新整備場にある訓練施設で厳しい入社教育を受けます。そこでは、接客の仕方や食事の提供方法といったサービス要員としての訓練だけではなく、機内で火災が発生したときの消火方法、お客様が倒れてしまったときの救急救命方法、緊急着陸や海に不時着水してしまったときの対処法など、保安要員としての訓練もコワい“教官”の指導のもと、しっかりと行います。

 そして、8月の繁忙期を迎える頃、「訓練生」のバッチを胸に付け、実際に飛行機に乗って行う実機訓練が始まります。その頃になると、それぞれのCAの「資質」がはっきりと見えてきます。

 羽田空港から福岡空港に向かう便では、羽田を離陸してから17~18分後、飛行機の左側真下に富士山の火口がはっきりと見えます。同じ九州行きでも宮崎、熊本、長崎、大分、鹿児島に向かう便は、太平洋上を飛んでいく航路のため、富士山は反対の右側やや離れたところに見えます。ですから、福岡行きの便では格別な富士山をお客様にご覧いただくため、私は飛行前の操縦士とのミーティングで、富士山上空を通過する時間を確認していました。

 さて、その飛行前ミーティングで「今日は離陸して18分後に左側真下に富士山が見えます」という情報を機長から得たとしましょう。

 その情報をいかに自分の中で消化して“気づき”を発揮するかで、明らかな個人差が出てくるのです。CAのAさんは、離陸した瞬間に腕時計を見て午後2時15分を指していれば、18分後の2時33分に富士山が見えると認識し、すぐにメモを取ります。そして時刻が近づいたら、ドリンクサービスをしながら、近くのお客さまに「間もなく、左手真下に富士山がご覧いただけます」と適切なタイミングでご案内することができます。

 一方、Bさんは、離陸した瞬間に腕時計を見て、その離陸時刻だけをメモしていたとします。そしてサービスをしている最中に、お客さまに「今日は富士山、見えますか?」と聞かれて初めて離陸した時刻を確認し、あわてて18分足して計算し、2時33分という時刻を伝えるという後手にまわった案内となってしまうのです。

 同じ年に入社したCAでも、ミーティングで得た情報を自分のものにできるか否かによって、成長の度合いは大きく変わってくるのです。

 おそらく皆さんの会社においても、同じ内容を指導しても、言われたことだけを理解するのではなく、その先を想像した行動ができるかによって、社会人としての伸び方は大きく違ってくることを実感していらっしゃるのではないでしょうか。

 相手の思いを想像して、一歩先を読んだ気づきができることがワンランクアップのビジネスパーソンになることをぜひ伝えていきたいですね。

イラスト

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年08月20日 00時00分 更新

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