次世代対話型インタフェースとして幅広いビジネス分野で活用が始まっているデジタルヒューマン。カスタマーサポートにおいては、KDDIがデジタルヒューマンと生成AIを組み合わせたオンラインサポートの提供を開始。音声、テキスト、画像を用いたマルチモーダル対応と顧客への寄り添いを重視したサポートの提供により、オンラインサポートのCXを追求している。
人間のような外見と動きを特徴とする3D モデルと音声認識・合成や自然言語処理などを組み合わせた「デジタルヒューマン」。次世代の対話型インタフェースとして注目されており、小売店舗や教育、医療など幅広い分野で、業務効率化や顧客満足度向上を目的とした利用が始まっている。
コンタクトセンターにおいても、チャットボット、ボイスボットによる応対自動化の進化形として注目されている。こうしたなか、KDDIが2025年3月に デジタルヒューマンと生成AIを組み合わせたオンラインサポート「auサポートAIアドバイザー」を提供開始。音声、テキスト 、画像を用いたマルチモーダルなコミュニケーションを実現した。KDDIに開発の経緯や工夫したポイントを聞いた。
オンラインサポートへの心理的ハードル
お問い合わせ時の「気遣い」
KDDIお客さまセンターは、従来からCX(カスタマーエクスペリエンス)を起点にしたデジタル戦略を推進。自動音声応答(IVR)への音声認識機能の導入や生成AIを活用したチャットボットなど、これまでの利便性向上の取組みに続く施策として、デジタルヒューマンを導入した。現在、月間200万件の問い合わせのうち、50%はチャットサポートなどのセルフサポートによって問題解決できている。今後もセルフサポートの利用を拡大するうえで壁となっているのが「お問い合わせ時の心理的なハードル」だった。 パーソナル事業本部 カスタマーサービス本部 カスタマーサービス企画部長の向田さおり氏は、「顧客インタビュー調査 では、“お問い合わせ時に気を遣ってしまう”といった、電話でのお問い合わせ時に心理的ハードルを感じているお客様も一定数いらっしゃることがわかりました。このことから、より気軽に問い合わせができて、かつ人と会話しているような親しみやすさを感じられる仕組み が必要と考えました 」と説明する。
見た目から性格まで
親しみやすさを追求
デジタルヒューマンの外見や振る舞い、性格、プロフィールは、策定したサービスコンセプトを反映したうえで、 顧客インタビュー調査を実施して決定。「沖縄県出身で同い年の夫と娘とともに東京で暮らしている」「好きなことは、『家族と公園でリフレッシュ』『推理小説を読む』」「名前はナギサ」など、これらの背景情報に基づいて雑談にも対応できるようにした。
一般的に、AIを活用したサポート では、雑談のシナリオパターンを作りこまないと対応できないため、問い合わせ以外のことは「わかりません」「お答えできません」として、一律に回答させないことが多い。そこで同社は、雑談部分に生成AIを活用し、性格やプロフィールをプロンプトとして利用することで、キャラクターの人格設定に基づいた柔軟な雑談を実現している。 設計を担当した同事業本部DXデザイン本部 デザインセンター デザイン2G コアスタッフ の仙崎萌絵氏は、「雑談は、気軽さや親しみやすさを感じていただくうえで必要不可欠です。問い合わせにも利用してみたいと思っていただけるような振る舞いを心がけています 」と述べる。
音声、テキスト、画像
マルチモーダルに対応
auサポートAIアドバイザーは、一定量の問い合わせがあり、視覚的情報との親和性が高い「Pontaポイントに関連する問い合わせ」に限定してスモールスタートした。スマートフォンの画面上で、顧客からの音声/テキストによる問い合わせの意図を生成AIで解釈し、テキストと音声読み上げで回答する。さらに、必要に応じて、選択肢や画像コンテンツを提示。その際、スマホ画面には画像コンテンツを大きく表示し、ナギサ(auサポートAIアドバイザー)は左上にワイプ表示に切り替わる。「問題解決に必要な情報や案内がお客様にしっかり伝わるよう、UIを設計しています」(カスタマーサービス企画部 デジタルエンゲージメントグループ グループリーダーの清 進也氏)。
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運用開始から3カ月、検証とシナリオ追加の改善サイクルを日々回したことで、自己完結率は80%~90%で推移。現在は、会話履歴を確認できるようにするなど、さらなる利便性向上を図っている。 カスタマーサービス企画部 デジタルエンゲージメントグループ コアスタッフの小寺 優輝氏は「並行して対応シナリオを追加していき、2025年度中にauに関するすべての問い合わせをカバーしたい 」と展望する。
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チャットボットやボイスボットに続く対話型インタフェースとして有効と考えられるデジタルヒューマン。今後、カスタマーサポートにおいても導入する動きが加速することが予測される。また、ITソリューションの視点では、複数のタスク特化型デジタルヒューマンを作成して、問い合わせごとに振り分けるマルチ対応をとる例も出てきそうだ。
会員限定2025年06月19日 12時00分 公開
2025年06月19日 12時00分 更新