現場を守り、優良顧客を守る 「カスハラ対応」の極意 第5回

2025年3月号 <現場を守り、優良顧客を守る 「カスハラ対応」の極意>

齊木茂人

実践編

第5回

「権威型カスハラ」への対応方法
重要視すべき“方針の作成と公表”

具体的なコールセンター/お客様相談室におけるカスタマーハラスメント事例をもとに、その対応手法などを検証する。今回は、住宅メーカーのコールセンターにおける対応だ。顧客の言動はいわゆる「権威型」で、会話の内容をSNSに掲載すると申し立てている。具体的にどのように対応するべきか、カスタマーハラスメント対応方針の作成方法と公表の必要性についても検証する。

PROFILE
公益社団法人消費者関連専門家会議(ACAP)
専務理事
齊木茂人
食品企業にて10年間消費者対応部門責任者を務める。2020年独立開業。14年間で3,000件以上の苦情対応やカスハラ対策を実践。食品、訪問看護、化粧品、流通、ホテル、公共サービス関連向けなどの研修を多数実施。

■顛末

 今回の登場人物は、40代男性顧客Aさん、30代女性オペレータのBさん。Aさんは、住宅メーカーZ社に新築の戸建てを依頼。Bさんは、Z社から委託を受けているコールセンターに勤務している。

 Aさんは完成間近の家を見学に行き、駐車場が1台分しかないことに驚く。営業担当に2台分の確保を依頼したと主張。営業担当は図面にある通り当初から1台分と説明したが理解してもらえなかった。Aさんは、住宅メーカーのコールセンターに電話を入れた。

 「何とかしてほしいことがあるんだ。家が完成近いので見に行ったら、駐車場が2台分ではなく、1台分しかなくて、驚いたんだよ」。Bさんは圧を感じつつも丁寧に「ご契約時には、2台分の駐車スペースを確保したいと依頼されたということですね?」と確認。Aさんは「もちろんだ。営業担当に何度も言ったし、確認もした。今になって1台分しかないってどういうことだ!」。

 Bさんは難しい顧客に当たってしまったと思いつつも「ご不快な思いをおかけし申し訳ありません。私どもでその件を確認します。少々お待ちください」と丁寧に伝えたが、Aさんは「待てないから電話した! 俺は間違ったことは言ってない! まずは社長名で詫び文を書いて直ぐに持ってこい、俺には相当数のフォロワーがいるからな、この会話をSNSにアップする」と威圧的態度を強めた。

威張り散らす行為が多い
「権威型」への対応

 不当・悪質クレームの行為は9つの類型に分類できる(図1)。今回の事例は権威型に近い。

図1 不当・悪質クレームの9類型
図1 不当・悪質クレームの9類型

 この場合、まず話を聞く姿勢を示す。そのうえで特別な対応はできないことを、丁寧にはっきりと伝える。1台分の図面が残っていることから、顧客の一方的な主張であるため「2台分の駐車場の確保はできかねます」と伝えるべきだ。

 では「社長名で詫び文を書け」と言われた場合、どのように対応すべきか。まず限定謝罪を用いて「ご不快な思いをおかけし申し訳ございません」と伝える。できる限り丁寧に感情を込めよう。同じ要求を繰り返された場合は「お詫び文のようなものはお作りしていません。会社の決まりとなっております」と伝えよう。仮に作成するとしても法務部門などが内容を確認すべき事例といえる。

 SNSに掲載すると言われた場合の具体的な対応方法は次の3つだ。

1. 毅然とした態度で「お客様のご判断におまかせいたします」と伝える。次のような忠告を添えることが大事。「ただし、掲載内容によっては顧問弁護士などと相談のうえ、しかるべき措置を取らせていただくことがございます」

2. 自身の感情をストレートに言葉に出して伝える。「私としては冷静な対応をいたしかねます。本日の対応はここまでとさせていただきます。失礼いたします」

3. 公表していれば対応方針を示し「インターネット上の掲載はカスタマーハラスメント対応方針の中でも触れております。行き過ぎた行為となりますのでご容赦いただけますでしょうか」。それでも出すぞ、と言われた場合は「誠に残念ですが、本日の対応はここまでとさせていただきます。失礼いたします」と言って切電する。

カスハラ対応方針
作成方法と公表の重要性

 対応方針があることで、オペレータは自信を持って対応できる。社外に向けて公表することで顧客に対する抑止につながる。対応方針のひな型の例が図2だ。作成にあたっては次の手順で進める。

図2 カスタマーハラスメント対応方針(参考例)
図2 カスタマーハラスメント対応方針(参考例)

 ①実際に発生している不当・悪質クレーム事例を集める、②事例に基づき具体的行為を類型ごとにまとめる、③方針の最初に、顧客視点、声の重要性、従業員を守る姿勢などを掲げる、④「不当な要求内容」「不当な要求行為」「働く環境が害された」など自社の考えるカスハラの定義を示す、⑤事例を類型別に列記、⑥発生時の対応方針として警察、弁護士への相談、連携などを記載する。「警察」は抑止の意味からも記載すべき、⑦制定日、社長名の記載。

 対応方針は社内周知だけではなく公表すること。社長名で公表するには役員会を通すなどの手続きが必要となるが、このプロセスを通じて方針がより高い位置づけとなり、対応中止が伝えやすくなる。

 2024年は方針を公表する企業が増えたが、公益社団法人消費者関連専門家会議(ACAP)が実施した会員企業向けの調査では、対応方針を作成した企業は約3割、公表は約1割だ。現在、多くの企業が検討に入っていると思われる。

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会員限定2025年02月20日 00時00分 公開

2025年02月20日 00時00分 更新

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