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現場視点での使い方指南 “生成AI”が変えるコールセンターの未来 第13回(最終回)

2024年3月号 <現場視点での使い方指南 “生成AI”が変えるコールセンターの未来>

小栗 伸

実践編

第7回最終回

「何ができるか」よりも「何をすべきか」
活用のスタートは“課題の見極め”にあり

生成AIの活用方法は、現場の数だけある。今回は、IT活用にもっとも重要な「課題の見極め」「適用領域の見極め」について解説する。現状と理想のギャップから課題を見極め、「何をすべきか」を特定することで、生成AIを有効に活用できる。このステップなく生成AIを活用しても、誰も使わない仕組みしか構築できない。課題を整理するための「3軸のかけ算」というメソッドを紹介する

PROFILE
AI Booster 代表取締役
小栗 伸
NTTドコモにて、ドコモショップ2300店舗に導入した「AI電話サービス」をはじめ12のAIプロジェクトを製品化・事業化。NTT DigitalでWeb3事業創出に取り組む傍ら、AI Boosterを設立し生成AIを活用したソリューション提供、導入支援に携わる。

 生成AIの活用は、課題の発見からはじめるべきだ。課題とは理想と、現実のギャップだ。生成AIでできることを知ると、多くのアイデアが浮かぶこともあるが、アイデアより課題が重要であるということを忘れてはいけない。

 「こんなことができたらいいのに」とアイデアが先にうかぶこと自体は問題ない。ただ、そのアイデアが解決する課題(理想とのギャップ)は何か。これがもっとも重要だ。対象とする課題の質が低い場合、その課題を解決するアイデアをいくら磨き上げても、誰も使うことはない。

「3軸のかけ算」による課題の探索

 多くの企業の事業開発の支援に携わる中でよく挙がるのが、「課題やアイデアが思いつかない」という声だ。

 これは、普段から情報を構造化してストックするということを習慣化できていないことに起因しているケースが多い。そこで、筆者が実践している「3軸のかけ算」というメソッドを紹介する。この方法は、情報を体系的に収集し、新たな課題の発見とアイデアの創出を容易にする。

 「3軸のかけ算」は、自分の関心領域を3つの軸で見直し、それぞれについて情報を収集し、ストックすることを基本とする。そして、「かけ算」とは、異なる軸の情報を組み合わせることで、新しい視点やアイデアを生み出すプロセスを指す。

 軸は、個人の専門領域、関心領域であってもいい。例えば、「(1)ドメイン知識(コールセンター)」「(2)技術トレンド(生成AI)」「(3)社会トレンド」という3軸をもち、情報を日常的にストックしていたケースを考えてみる()。

図 3軸の掛け算
図 3軸の掛け算

 (1)ドメイン知識として、コストをかけても解決したい課題の背景に「人手不足」があったとする。(3)社会トレンドから、「この人手不足は今後さらに拡大する」という知識があれば、その課題が将来、より深刻になると判断でき、課題解決のため「アイデアの深掘り検討を行う」といったアプローチが導き出せる。そして、アイデア検討に、(2)生成AIのトレンドに関する知識が生きてくる。生成AIの知識を活用することで、課題に対する解決方法を具体的にイメージできる。

 この「3軸のかけ算」では、日常生活での情報収集が、課題解決やアイデア創出の強力な武器となる。複数の視点を組み合わせることで、見過ごされがちな課題を発見し、革新的な解決策を見つけ出すことができる。また、非常にシンプルな方法であるため、日常生活においても、無理なく情報をストックできることも特徴である。

 軸の取り方には、いろいろある。生成AIの技術的なトレンドに着目するのも手だが、その技術によって、「ユーザーの体験がどう変化するのか」や、対話型AIが一般化することで、従来、人同士の対話でしか共有されなかった悩み事などのデータがデジタル化されるなど、「生成・蓄積されるデータの変化」といった軸もある。

 複数人で議論を行う場合は、それぞれの軸が違うことにより、より広い空間で課題の探索、アイデアの磨き込みが可能となる。「課題やアイデアが浮かばない」と感じられている方はぜひ、実践していただきたい。

生成AIの適用領域の見極め

 課題の特定とその解決策であるアイデアが出れば終わりではない。アイデアを実現する際、生成AIをどう活用するか見極めることも非常に重要だ。すべての課題に生成AIを適用する必要はなく、実際、一部の課題は既存技術で十分に解決可能なことも多い。

 例えば、自動音声応答サービスを例に考える。生成AIを活用することで、新たな価値提供が可能な場合もあるが、既存技術で十分対応ができるケースもある。既存技術ではコストがかかりすぎたり、そもそも実現が難しい複雑な応対については、生成AIの活用が有効だ。このような場合は、事前にフィジビリティ(実現可能性)検証を行い、技術的な実現可能性とコスト効率を検討したうえ、開発を進めるといいだろう。

 重要なのは、ビジネスの観点から必要要件を定義することと、自動化に必要な技術的な検証ポイントを明確にすることだ。技術的な難易度、必要な検証の順序を明確にすることも含まれる。

 チームでこのプロセスを進める際には、ビジネス側、技術側、現場側とすべてのメンバーが同じ目標に向かっていることを確認し、目的と優先順位についての認識を合わせることが重要だ。これがうまくできないと、多くの時間を費やして検証を行っても、その検証が無駄になる。生成AIの適用がビジネスにとって本当に価値のあるものかどうかの見極めを行う際に必要なのは、ビジネス側、技術側、現場側の生成AIに関するリテラシーである。

 本連載は、今回で終了となるが、生成AIについてのトレンドの理解、そして何より、自身で使って理解する。これらをぜひ継続し、リテラシーを磨き続けていただきたい。コールセンターの未来は、現場にかかっている。生成AIのトレンドの理解に加え、課題の発見を行えればあとは解決するだけである。

2024年02月16日 00時00分 公開

2024年02月16日 00時00分 更新

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