2023年10月号 <インタビュー>

国立情報学研究所 佐藤 一郎 氏

佐藤 一郎 氏

「特徴と機能の正しい理解」が絶対条件
“生成AI”への過剰な期待に警鐘

国立情報学研究所
情報社会相関研究系 教授
佐藤 一郎 氏

企業は生産性向上を目的に、生成AIの活用への関心が高い。AIに関する研究を続けてきた佐藤氏は、「テスト運用した企業間でもすでに活用レベルに差が生じている」と指摘する。どういった点に留意して活用すべきなのか。さらに、開発が加速する和製LLMへの見解や、カスタマーサービスでの活用に関する“あるべき姿”を聞いた。

Profile

佐藤 一郎 氏(Ichiro Sato)

国立情報学研究所 情報社会相関研究系 教授

システムソフトウェア専門。慶應義塾大学理工学部電気工学科卒、同大学理工学研究科大学院計算機科学専攻後期博士課程修了、博士(工学)。2001年同研究所ソフトウェア研究系助教授を経て、06年から現職。デジタル庁「政策評価に関する有識者会議」座長、経済産業省・総務省「企業のプライバシーガバナンスモデル検討会」座長他を歴任。

──OpenAIの生成AI「ChatGPT」を活用する企業が増えています。

佐藤 大手企業を中心に、生成AIの利用に関する相談は増える一方で“過剰な期待”を感じます。また、社内利用を開始した企業では、利用率の高いところと、そうではないところに二分されている印象です。企業内でも、部署によって差がかなりあるようです。利用の高い会社や部門は、生成AIの特徴を、利用できる部分に上手に活かしはじめていますね。

──どういった特徴がありますか。

佐藤 現時点での生成AIの最もよい使い方は、知らないことを聞くのではなく、知っていることの文章生成を手伝ってもらうこと。要約や翻訳が代表的で、利用価値はかなり高い。いずれも基になる情報があるため、間違いが少ない。そのため、膨大な社内文章の要約に、生成AIを使う例が多いようです。教育機関も同様に、論文や特許情報の翻訳、要約に使う傾向があります。

──顧客への応対業務を生成AIに置き換えようとする上層部もいます。

佐藤 「対話型AI」と紹介されたことから、問いかけには何でも返答する(教えてくれる)道具と認識した方も多かったのでしょう。しかし、ChatGPTはあくまでも予測モデル。入力されたプロンプトに対し、確率に基づいた文章を生成しているのみです。一般的な知識には強いですが、専門的な内容には弱い傾向にあるため、実業には使いにくく、ミスマッチな業務も多いでしょう。常に正しい文章を生成しているように見えるため、意味を理解して対話しているように錯覚します。ですから、与えられた文章に対し“確率的に正しいと判断した単語を並べている”だけだと理解しなければなりません。

──的確な回答を得るには、プロンプト(命令)が重要とされています。

佐藤 ChatGPTを、OpenAIのWebサイトから利用する場合と、アプリケーションなどからWeb APIを介して利用するのとでは、使い方が異なってきます。前者は、利用者自身が欲しい出力を得られるプロンプトの入力が求められます。しかし後者では、入力を行う利用者からの影響を減らすことが重要になります。

──具体的成果が期待されています。

佐藤 すべての業種で活用できる好事例は、出てきにくい性質があると思います。ほとんどが、社内での活用からはじめているため、対外的に発表できるレベルの効果検証には時間を要するのでしょう。

 AIはあらゆるITソリューションにおいて、単なる“部品”です。実現したい明確なビジョンと特徴を踏まえ、使いやすいプロセスを正しく判断できるリテラシー、そして業務および組織改革がない限り、大きな成果を出すのは、難しいと思います。

(聞き手・荒木世理子)
続きは本誌をご覧ください

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年09月20日 00時00分 更新

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