千客万来 百鬼夜行 第13回

2026年2月号 <千客万来 百鬼夜行>

多和田 元

コラム

第13回

『継ぎ目』に見えた巨大サービスの死角

 日頃慣れないことをするのはトラブルのもと、というけれど、その朝、JR東海道線があまりの混み具合だったのと、荷物がいつもより多かったのとで、贅沢にグリーン車を利用した。そのうえ、東京駅で隣客が座席のリクライニングを戻さずに席を立ってしまったので、仕方なく、自席ともども席を戻し、大急ぎで出口に向かった。そのあたりもいけなかった。バタバタして、つい携帯電話を置き忘れてしまったのである。

 すぐに気がついたが、電車はすでに出発していた。携帯電話は、わずか数十メートル先を走り出している。

 やむなく、駅の遺失物係を訪れたが、窓口が開くのは1時間以上先。プラットフォームに引き返して事務所に届けたが、「ラッシュ時の対応は難しい」との返事である。乗車中のグリーンアテンダントに、近くの駅に届けてもらうことは出来ないようだ。

 関東在住でない方のためにご説明しよう。

 東海道線は、2015年から、東京〜上野駅をはさんでいた東北本線系統と直通している。その結果、静岡〜神奈川〜東京〜埼玉〜群馬または栃木まで縦貫運行しているのである。乗った電車は宇都宮行きだった。

 追跡サービスを見ると、携帯電話はみるみる北上していく。電波の感度が悪くなったのか、途中で位置が留まり、「ひょっとして」と期待を持たせる。だが2時間後、予定通り終点到着。なに、気がついた場所から「ほんの109.5kmほど先」である。

 拾得時には連絡をくれることになっていたが、それはついに来なかった。遺失物係に問い合わせようとしたが、関東一円の共通電話番号で、「各駅から報告が上がったらわかると思います。数日待ってください」とのことだった。電話がないと業務に差し支えるので、宇都宮駅に問い合わせたところ、拾得はあったが、「東京駅からの遺失連絡は聞いていない」という。東京まで電車で運べるか聞いたが、それも無理だった。

 結局、終業後に宇都宮まで、新幹線で取りに行くことにした。遠かった。

 こちらのミスなのだから仕方ないが、いくつかの問題点は感じざるを得なかった。企業が大きなサービスを提供しようとするのであれば、それなりに対応システムも大きくなければならない。その意味で、引き継がれていなかったことは残念だった。

 それぞれの窓口は丁寧に対応をしていただいた。毎日、膨大な量の遺失物が生まれていることは理解している。窓口を一本化することは悪いことではないが、そこからの連携が円滑でなかっただけである。

 いま、カスタマーサービスは、SNSなどの普及により、コールセンターからマルチチャネルのコンタクトセンターへの過渡期にある。システム更新などを機会にシステムを見直す企業も多い。その時に、どれほどの規模で設計するか。どれだけを想定して、いかに効率的な連携を可能にするかが、問われている。優秀なシステムを導入しても、実務を行うセクションとの連携が十分に考慮されなければ、そこでジョブが溜まって、クレームを生んでしまうのである。

 それにしても、忘れ物をしたほうが悪いのは間違いないのだが、と思い返しつつ、帰りの新幹線のシートに身を沈めた。

PROFILE
多和田 元
Receptech代表。報道記者として取材・編集部門を経て、コンタクトセンター部門へ。オペレータ、SV業務と同時にシステムも担当。現場経験を生かした新しいシステムの構築や、カスタマーハラスメント対策などに長年取り組んでいる。

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会員限定2026年01月20日 00時00分 公開

2026年01月20日 00時00分 更新

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