元ファーストクラスCAの接客術“おもてなし力”の磨き方 第26回

2025年7月号 <元ファーストクラスCAの接客術 “おもてなし力”の磨き方>

江上 いずみ

コラム

第26回

「分離礼」「By Name」で心のこもった挨拶を

 新年度を迎え、読者の皆さまの会社においても新社会人への教育が盛んに行われていることと思います。私も4月から5月にかけては、全国の官公庁や企業、医療機関、介護施設等の新任研修に奔走していますが、その新任研修においてどの組織でも最初に指導しているのが「挨拶」ではないでしょうか。

 日本における挨拶は「お辞儀」で始まり「お辞儀」で終わります。そもそも日本のお辞儀は、武士が主君の前で土下座をするように、急所である頭頂部を見せることで、相手に対する服従や敵意がないことを示すものです。その趣旨にのっとれば、しっかりと頭を下げ、同時に目を伏せるのが基本です。しかしその挨拶において、お辞儀をする動作と言葉を発するタイミングに少し工夫をするだけで印象が大きく変わってきます。

 普段、私たちが行っている挨拶は、ほとんどの場合、頭を下げながら「よろしくお願いします」と言葉を発する「同時礼」で行っています。頭を下げて挨拶をしているのですから、これはこれで立派な心づかいです。しかし、頭を下げながら言葉を発するこの方法では、せっかく発した言葉が下の方へ向かってしまい、聞き取りにくくなってしまいます。

 この「同時礼」に対して、言葉を発してから頭を下げる方法を「分離礼」と言います。「分離礼」は別の言葉で、先に言ってから後から礼をするという意味の「先言後礼」、または言葉を先に言ってから後から礼をするという意味で「語先後礼」とも言われます。

 例えば新社会人が所属先に来て自己紹介する時、まずは相手の目を見ながら「この度こちらに配属となりました〇〇と申します。どうぞよろしくお願いいたします」と言葉を発し、その後に頭を下げると、言葉がしっかり相手に伝わるので、「分離礼」を意識することでより丁寧な挨拶になります。

 さらにその印象を高める挨拶が「By nameの効果」です。朝、職場の自分のデスクに行ったとき、ただ「おはようございます」と言って荷物をポンと置くのではなく、隣の席の人に向かって「山田さん、おはようございます」と相手の名前を付けて挨拶するだけで印象はとても良くなります。上司は部下に名前を呼ばれて挨拶されることで親近感を感じますし、部下は上司に名前を呼ばれることで、自分が承認されていることを実感します。

 職場における折々の挨拶を「よろしくお願いします」「ありがとうございます」だけではなく、「斎藤課長、よろしくお願いいたします」「鈴木先輩、ありがとうございます」に変えてみてください。そして職場から帰るときも「鈴木先輩、お疲れ様でした」「斎藤課長、お先に失礼します」と挨拶の前に名前を入れて挨拶してみてください。必ず「おっ!」と嬉しそうな表情で挨拶を返してくれるに違いありません。

 朝一番の明るい挨拶は人間関係の潤滑剤です。「分離礼」そして「By nameの効果」でより親近感を表現して、皆さんの職場がより楽しく明るい雰囲気になるよう、配下の方々をご指導いただきたいと思います。

気持ち良い挨拶のための3つのカギ
PROFILE
江上 いずみ
筑波大学・神田外語大学客員教授。Global Manner Springs代表。慶應義塾大学卒業後、日本航空(JAL)の先任客室乗務員として30年間乗務。機内アナウンスに定評があり、JALの機内アナウンス指導クリニック創設者でもある。1987年、皇太子殿下・美智子妃殿下特別便に選出され乗務。現在、大学や医療機関、介護施設、官公庁や企業に講演や研修を行う。著書「JALファーストクラスのチーフCAを務めた『おもてなし達人』が教える“心づかい”の極意」(ディスカバー・トゥエンティワン)「幸せマナーとおもてなしの基本」(海竜社)

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会員限定2025年06月20日 00時00分 公開

2025年06月20日 00時00分 更新

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