実践編
第35回最終回
これまで、コールセンター「DX化」の絶対条件のひとつ、『シニアのデジタルシフト』講座を続けてきた。その概括として押さえたいポイントを、4回にわたってまとめた最終回は、4つ目のポイントである「Device/Offline」(プリンター印刷対応・オフライン動作への対応)だ。SFO(シニアフレンドリー最適化)の考え方の理解とともに、「Device/Offline」の解決のポイントについて解説する。さらに、SFOの考え方を振り返るとともに、今後の展望についても考えたい。
60〜70代のシニア世代のデジタルシフトを語るうえでは、通信技術や媒体の進化を考えることが欠かせない。
この世代が若いころの伝達手段といえば、アナログ電話と手紙だった。待ち合わせに、駅の伝言板を利用していた時代である。電話はプッシュホン、ポケットベル、携帯電話(ガラケー)、スマートフォン(スマホ)と技術の発展に合わせて進化してきた。しかし、紙の利用は、デジタル端末が普及しても、新聞や書籍、身近なところではプリンターでの印刷といった形で現在も親しまれている。
最近は、デジタルシフトがさらに浸透し、スマホでのSNS利用も日常のものとなった。しかし、公的書類や医療・介護現場では、まだまだ紙といったレガシーな手段が主流な場合も多い。
シニア世代では、紙に必要事項を印刷して持ち歩くことや、FAXで用件を送ることは、馴染み深い行動でもある。そこで、この世代が利用するデバイスや、オフラインでの行動に着目し、どうシニアフレンドリー最適化を行っていくかを検討する。
シニア視点のWebサイト(及びアプリ)の「不満足度」のポイント4つ
A:探している商品、情報がうまく見つからない(一覧性、検索性の不備)……Findability
B:インターネットへの不安(個人情報などの漏えい、詐欺などへの不安)……Reliability
C:高齢者への視聴覚対策の不足/体の衰えへ配慮した機能性・操作性 ……Functionality
D:プリンター印刷・オフライン動作への対応(印刷、オフラインなどへの依存度が高い)……Device/Offline
「D:プリンター印刷・オフライン動作への対応(伝達媒体の変遷)…… Device/Offline」について詳しく解説する。
Device/Offlineに含まれる項目は以下の2つである。
①プリンター印刷
シニア世代もスマホでのインターネット利用が増えている。だが、通販での注文時はパソコンの利用がまだ多く、ホームページ画面をプリンターで印刷して持ち歩くことも多い。
また、スマホの活用が進むにつれ、画面のスクリーンショットを保存して持ち歩くことも増えている。各種予約や注文などを、画面の状態で保管したい要望が強い。
②オフライン動作
シニア世代のインターネット活用パターンとして、商品の詳細内容やクチコミの閲覧といった情報収集には、Webを活用。そして、実際の注文は、電話やFAXを利用する人もいる。
このような人たちのために、注文先の電話番号の案内表示の有無は、CVRアップの重要な要素となる。昨今、利用が減少しつつあるFAXだが、まだ残るFAX利用者のために、注文画面にはFAX番号などの併記があるほうが良い。
①プリンター印刷
注文の控えとして、商品到着やカード支払いが完了するまで、注文完了画面の内容をプリンターで印刷して保存する人もいる。
例えば、共同購入をして商品を分ける場合など、購入価格やその履歴を全員で共有するためにも、印刷ボタン(図1)があると便利だ。
飛行機の予約(eチケット)など、チケット発行時に、図2のように印刷できるサイトも増えてきた。QRコード印刷もでき、空港での待ち時間を減らすことができる。
②スマートフォンのスクリーンショット
2024年度のモバイル社会白書によると、60代のスマホ所有率は96%、70代でも90%を超えているという。シニア層の多くがスマホを所有する時代となり、通販注文や交通機関の予約などもスマホを利用する人が増加している。
しかし、注文確定時の画面内容などを、プリンターで印刷する方法が分からない人も多い。また、プリンターを所有していない人もいる。そのため、確認画面には、スマホのスクリーンショット保存の仕方や、データでの保存方法についての説明書きがあると親切だ。
①電話番号案内表示
商品詳細や他社商品との比較のため、Web検索や比較サイトを利用することがある。
一方、詐欺サイトへの不安や、オペレータとの会話による注文確認のため、電話注文を好む層も多い人。Webサイトの利用途中で操作に困って、電話対応を求めるシニア層も多い。
最近では、スマホを使って注文をするシニア層も増えているが、老眼など、身体的な衰えから操作に不慣れな人も多い。そのため、クリックtoダイヤル(クリックコール)のボタン操作による電話注文が簡単にできれば、便利である。
ただし、最初のボタンのタップで、すぐに発信することは避けたほうが良い。というのも、利用方法に慣れていないシニア層は、直接の発信に驚いて電話を切断してしまうこともあるからだ。
この解決には、図3のように、発信案内のページ表示を経由しての発信が望ましい。
コールセンター「DX化」の絶対条件 『シニアのデジタルシフト』講座・Web版 第33回(https://callcenter-japan.com/article/7553/1/)の、「Reliability:電話対応窓口」にも詳細を記載している。あわせて参考にされたい。
②FAX番号表示
利用が減少しているFAXだが、雑誌・DMやチラシの注文欄に手書きで記入して、FAX送信するケースもある。こうした利用者のために、WebのトップページにはFAX番号などの併記があるほうがフレンドリーだろう。
コールセンター「DX化」の絶対条件『シニアのデジタルシフト』講座も、2022年5月の連載開始から35回を数え、第32回からはシニアのデジタルシフトに不可欠な下記のポイントを4回にわたってお伝えしてきた。
単純に文字を大きくするだけのUI改善ではない、シニアに寄り添った視点について理解も深まったことと思う。
シニア層でもデジタルシフトの加速は例外ではない。人口に占める高齢者の割合が約3割の社会において、シニア世代のマーケティングはより重要性を増していき、消費を語るうえで避けて通れない状態となっている。
さらに最近は、シニアマーケティングにおいても、次のような項目を重要視する必要が増えている。
◯多様化するシニア層への対応
健康寿命の延伸により、旅行や趣味を楽しむなど、アクティブな生活を送るシニアが増加しており、体験型商品やサービスへの需要が高まっている。
◯個別化・パーソナライズ化の推進
シニアの購買履歴や行動データなどのビックデータを分析しAIを活用することで、シニアの好みやライフスタイルをより深く理解し、最適な商品やサービスを推薦することが可能になりつつある。
◯社会貢献との連携
環境問題や社会問題に対する意識の高まりから、サステナブルな商品やサービスへの需要が高まっている。シニア層も、この流れに沿った消費行動をとる傾向が見られる。さらに企業には、シニアの持つ経験や知識を生かした社会活動への参画を促し、生活の質の向上につなげる提案が求められる。
◯新しい価値観への対応
シニア世代に対しても、多様な価値観を尊重した商品やサービスを提供することが求められる。ひとり暮らしの高齢者の増加など、新しいライフスタイルに対応した商品やサービスの開発も必要となってくる。
SFO(シニアフレンドリー最適化)の視点は、単に商品を売るだけでなく、シニアの生活を豊かにし、社会貢献にもつながる重要な取り組みだ。
人生100歳時代に、シニア層のニーズはますます多様化していくことが予想され、企業はこれらの変化を踏まえて、新たな価値を提供していくことが不可欠になるだろう。
2025年03月14日 13時00分 公開
2025年03月14日 13時00分 更新
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