UAゼンセン 佐藤 宏太 氏

2024年12月号 <インタビュー>

佐藤 宏太 氏

UAゼンセン
流通部門 執行委員
佐藤 宏太

(Kouta Satou)2007年株式会社髙島屋入社。同社労働組合を経て2022年UAゼンセン専従となり、流通部門にて政策を担当。その中でカスハラ問題に携わり、現場起点の課題を政策立案するほか、省庁への要請、組織内参議院と連携して国会に提出するなど活動を広げる。

カスハラは企業の努力次第で減らせる!
部署を越えた“一枚岩”での対応が肝心

UAゼンセンは2024年1月〜3月、カスタマーハラスメント対策アンケート調査を実施。カスハラ被害の減少が分かり、法改正の有効性を示すとともに、企業の対策も道半ばで不十分であることを指摘。佐藤宏太氏は、「対策していないと回答した企業は、40%以上。導入コストや教育時間の捻出など課題は山積しています」と強調する。

──2017年の「カスタマーハラスメント対策アンケート調査結果」は、2020年の法改正へとつながり、社会的インパクトもありました。今回、3回目の調査を実施した狙いは。

佐藤 2020年6月、改正労働施策総合推進法が施行され、その指針として顧客からの暴行や脅迫、不当な要求など著しい迷惑行為に関し、事業主は従業員からの相談に応じ適切に対応するため体制の整備や、被害者への配慮を行うことが望ましいと示されました。2022年2月、厚生労働省からカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)対策を行うための企業向けマニュアルやリーフレットが公表され、社会的な周知が進むとともに、企業の取り組みが加速しました。法改正から5年が経過したタイミングで、不足があれば改正に向けた議論が行われることを見越し、現状を把握して改正議論に向けたひとつのエビデンスとなるよう、2024年に3回目となる調査を実施しました。

──今回の調査結果について詳しく教えてください。

佐藤 まず、カスハラの被害状況についてですが、被害にあった方の割合は46.8%と、2020年と比べ減少しています。これは、カスハラに関する社会的な認知の拡大や企業の取り組みが一定程度、進捗した成果と推測できます。一方で、業種業態などによる差は広がっています。例えば、ドラッグストアではコロナ禍を背景としたマスク不足や、昨今の薬不足・濫用リスクのある薬品を大量購入できない販売ルールの厳格化などによりカスハラの被害が増えたと考えられます。

 カスハラの内容については、長時間の拘束やセクハラ、SNSでの誹謗中傷が増えています。また、加害者の傾向としては、2020年調査と同様、50代・60代・70代が多い状況でした。良い点としては、カスハラに対し「できません」と毅然とした対応ができた方が増えるという結果が出ました。これは企業側がマニュアルの整備などの対策を行ったことで、それが後ろ盾となったものと捉えています。

対策はまだ道半ば
教育機会の確保が課題

──対策の効果が出つつあるということですが、今後、企業が取り組むべきことについて教えてください。

佐藤 調査では「対策をしていない」と回答された企業が42%で、その割合は前回調査からほぼ変化がありません。すでに取り組んでいる企業が、さらに対策を進める一方、スタート地点で難航している企業も目立ちます。とくに小規模かつ多店舗展開という業態では、接客現場が多忙であることなどが理由で教育機会を設けることも難しく、カスハラ対策をどのように浸透させられるか足踏みをしている状況も見られます。また、防犯カメラなどカスハラ抑止に有効な設備も、コストがネックとなり中小企業では導入が難しい現状もあります。導入を進めるための補助金制度なども必要ではないかとも考えています。

──企業側の対策も道半ばですが、顧客側の意識醸成も途上ですね。

佐藤 一部の自治体が、消費者教育を進めています。今後、学校教育にも広がれば良いとも考えます。また、企業による消費者に対する働きかけも必要です。最近は、駅や店舗など消費者と接点のある場所でカスハラを啓発するポスターを見かけることが増えました。ハラスメントの多くは無自覚で、本人は気が付いていないケースが少なくありません。意識させることで防げるカスハラは多い。コールセンターでも、「この通話は録音しています」と一言、案内することでクレームが減ると聞きます。こうした意識醸成は、まだまだ広めていく必要があります。

指針表明とマニュアル作成
カスハラ対策は経営課題

──来年4月、東京都ではカスハラ防止条例が施行されます。これを受けて、企業の対策は加速しつつあります。

佐藤 企業の立場として顧客の行き過ぎた言動に対し、カスハラと呼ぶことに抵抗感があったり、対策にかかる労力やコストを懸念するといった状況もありますが、対策が遅れることで失うものは非常に大きいことを認識すべきです。例えば、対応に拘束されることでの生産性の低下、要求が過度になることでの会社資産の流出、対応を誤ることでSNSなどで誤情報を発信され会社の信頼が損なわれる。そして何よりメンタルヘルスが悪化した従業員の離職、職場の安心・安全を損なうことによる人材確保の難航など経営の観点でデメリットが数多くあります。まずは、トップが危機意識を持ち、「従業員の健康や精神を守るため、社会通念上行き過ぎたクレームは毅然と対応する」というメッセージを示すことが重要です。このトップメッセージをもとに、マニュアル作成と従業員教育を進め、社外への指針表明へと広げるといいでしょう。また、業種によりカスハラの実態が異なることから、経営者団体がそれぞれの業種に対応したマニュアルやガイドラインを作成し、それを企業にベンチマークする動きも出ています。一連の動向は大企業のみならず、人手不足でカスハラ対策になかなか手が回らない中小企業が対策を進めるきっかけにもなると考えます。

──トップの認識が甘い場合、ボトムアップで進めることも可能でしょうか。

佐藤 労働組合が声を上げるケースもあります。この場合、従業員がどのように困っているのか、実態を示すためにアンケートで可視化することも重要です。

過剰サービスを見直して
期待値をコントロールしよう

──店舗やコールセンターなど、顧客接点が複数にわたる場合、対応方針の統一が課題になります。

佐藤 一枚岩で対応することが重要です。マニュアルに従って店舗で売買を断った顧客が、コールセンターに電話をしてしまうことがあります。すみやかに社内で情報共有し、同じ対応を徹底しましょう。

 カスハラかどうかの判断基準を統一することも重要です。正当なご指摘は真摯に受け止め対応しなければなりません。カスハラではないにもかかわらず、カスハラとして対応してしまうことがないよう、サービスについて深い理解を促す教育が必要です。

──カスハラ対策が、自社のサービスについて見直すきっかけにもなりそうです。

佐藤 深刻な人手不足を背景に、従来通りのサービス品質を維持できなくなっている企業は少なくありません。また、時代の流れを受けてサービスが変化し、その変化に対応できない一部の顧客がカスハラとなるケースもあります。たとえば小売店ではセルフレジが進み、食品ロスを防ぐため閉店間際は商品が少なくなる店舗もあり、期待通りのサービスを受けられない不満がカスハラに発展することが増えています。しかし、従来のサービスが過剰だったことを消費者は認識すべきです。24時間営業の店舗を21時に閉店しても、困る顧客はかなり少数です。サービスの有料化もいいかもしれません。適量生産と適量消費の必要性を企業側が伝え、消費者側の感覚も合わせていく必要があります。相互理解を進め、合意形成を重ね、期待値をコントロールしていくことが重要です。

──全国の自治体でカスハラ条例が検討され、来年、改正法案も国会に提出されます。注目すべき動向は。

佐藤 対策は道半ばで、被害を防止する対策をより強化していかないといけません。企業側、消費者側の双方に法規制を強化する必要がありますが、まず企業側への法整備が必要です。カスハラ対策は、その線引きが難しい事に加え、その事象の前後に何があったか、エビデンスが取りにくい現場ではとくにケースバイケースの判断が求められます。適切な法規制が検討されることで、企業のカスハラ対策が加速し、従業員が守られることを望みます。

(聞き手・石川 ふみ)

イメージ写真
UAゼンセンの概要
設立:2012年11月6日
代表者名:永島智子会長
本社所在地:東京都千代田区九段南 4-8-16
事業内容:全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟。2208組合、189万8966名が参加する日本最大の産業別組織(2024年9月現在)。公正労働基準の確立や産業政策実現を目指す。

2024年11月20日 00時00分 公開

2024年11月20日 00時00分 更新

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