Part.1 <提言>
貯める、整える、分析する、使う──
「インサイトを発掘」活用法に進化の期待
VOCの収集と分析、還流をコールセンターのミッションと設定している企業は数多い。しかし、集まる声が定性データで数値化、可視化しにくいこともあって、「高度な経営判断」に活用できている事例は少ないのも事実だ。生成AIをはじめとした新しいIT分野の登場と普及で、そうしたVOC活用のプロセスがどう変化するのか──提案する側のITベンダーと、活用する事例企業の取材でVOC活動の変化と進化の可能性を検証する。
コールセンターに蓄積されるVOC(顧客の声)データは、貴重な経営資源とされる一方で、「取り扱いが難しい」という指摘も多かった。その理由は、大きく3つある。(1)一部の顧客(とくに高齢の顧客)の声しか集まらない、(2)定性データなので分析が困難、(3)記録されるデータの品質がオペレータの要約、文章作成スキルによってバラつく。しかし、収集・分析・活用という業務プロセスの一部がAIに置き換わることで、これらの課題が解消する可能性がある。
とくにデータの収集は、音声認識ソリューションの導入効果が大きい。VOCの分析と還流、活用についても、生成AI活用を提言するITベンダーが増えている。実際に、応対ログからFAQやスクリプトをAIが自動生成するソリューションが登場するなど、コールセンター内部でのVOC活用は急速に進みつつある。
マーケティングや営業、開発・製造など他部署でのVOC活用も、テクノロジーを活用することで進化しはじめている(図)。AIを利用すれば、コールセンターで集まる定性データと、他の接点や手段で集まる定量データの紐づけや分析もよりスムーズになる。情報の価値が飛躍的に高まるはずだ。
Part.2 <座談会>
顧客の「インサイト」を可視化する!
データの“量と質”を強化する5社の挑戦
コールセンターのVOC(顧客の声)活動が“変質”を余儀なくされつつある。顧客対応の自動化に伴い、収集できる「声」がより限定的なものとなりつつあり、その量と質が改めて問われているからだ。BtoCで電話やメール、チャットの応対履歴やSNS、アンケートなどからVOCを収集・分析している担当者・マネージャー5名に、分析・活用の具体的なポイント、生成AIを活用した未来像を聞いた。
<出席者>(順不同)
──VOCの収集・分析・活用などを担当あるいはマネジメントされている皆様にお集まりいただきました。問い合わせチャネルの拡大や分析ツールの高度化などから、VOC活用も変化しています。現在の取り組み内容と生成AIを活用した未来像について、お聞きしていきます。まずは自社・自己紹介をお願いします。
稲葉 ローソングループではローソン、ナチュラルローソン、ローソンストア100などを全国約1万4000店舗、運営しています。従来、問い合わせは各店舗・各部門で受けていましたが、品質管理・向上などを目的に2016年、コールセンター部門を設立し、お客様はもちろん、社員・クルー(店舗で働くアルバイト・パート従業員)の問い合わせ窓口を一元化しました。私はそこの部門統括としてセンターマネジメントを行っています。
神田 ジュピターショップチャンネルは、24時間365日生放送のショッピング専門チャンネル「ショップチャンネル」を運営しています。問い合わせの入電数は年間40〜50万件、1日あたり1500〜2000件。私自身はマーケティング本部 コンタクトセンター部 VOC管理グループに所属し、VOCを整理し社内の関係者に共有し、お問い合わせを削減していく役割を担っています。
岡田 松井証券は、株や投資信託などを取り扱うネット証券会社です。1998年にネット証券サービスを開始し、当初は東京本社に顧客の問い合わせ窓口を置いていました。口座数や問い合わせ数の増大に対応するため2005年、札幌にコールセンターを開設し、20年近く運営しています。私は顧客サポート部で、コールセンターシステムの運用やVOC分析などを行い全社に共有しています。
横関 WOWOWコミュニケーションズは、衛星有料放送サービスを提供するWOWOWから1998年に分社化して設立したBPOベンダーです。WOWOWをはじめ、さまざまな企業のコンタクトセンターを受託運営しています。私は、所属するWOWOW事業部で、WOWOWの利用者からの声を分析・活用する役割を担っています。顧客接点がデジタル化している風潮に加え、自己解決の促進や個客対応の自動化など、さまざまな施策を講じてきた結果、呼量は減少傾向にあり、コールセンターだけではVOC収集が不十分なため、アンケートやSNSによる収集にも取り組んでいます。
安藤 パルコの主軸事業は、商業施設「PARCO」の運営です。いわゆる“館(やかた)”ビジネスで、クライアントはPARCOに出店するアパレルなどのショップ。ビジネス形態がBtoBtoCであるためかつてはBtoCのコールセンターはありませんでしたが、自社サービスとしての「PARCOポイント」やアプリQRコード決済「ポケパル払い」のサービスインに伴いコールセンターを開設する際、立上げの指南役を務めました。その後は23年度末までデジタル推進部の部長としてデジタルタッチポイントの構築やそこから収集するVOCを含む顧客データの分析活用を行ってきましたが、この3月にデジタル推進部とCRM推進部が合併し顧客政策部の部長となり、コールセンターが管理下になりました。副業として、マーケティングのコンサルティングにてCRMプランナーを務めています。
電話・メール・アンケート・SNS
オムニチャネル化で拡がる収集源
──VOCはその元となる「声の質」がカナメとなりますが、どのような声をどのように集め、記録し、分析、活用していますか。
稲葉 対象としているのはコールセンターの問い合わせ内容に加え、全国約1万4000店ある加盟店に集まる声、社員・クルーからの意見・要望です。お客様の声の収集手段は、メールと電話に加えて、利用が急増しているSNSからも取り入れるようになりました。これらのVOCを分析し、本部ごとに関係するデータに分類し、「問題定義要件」として提出しています。
神田 ショップチャンネルはテレビ通販とWebサイトで販売しています。注文を受けた翌日出荷、お客様の手元に届いた頃(注文から4日前後)に該当商品に関する問い合わせが増加するというサイクルです。注文は電話がメインなので、VOCも電話が中心です。その他、メールやお手紙、最近では、公式インスタグラムにご意見・お問い合わせをいただくこともあります。
安藤 VOCとして収集しているのは、コールセンターへの問い合わせ内容や、テナントからのご意見・ご要望、自社アプリ(POCKET PARCO)のショップ評価、購入翌日にいただく評価です。購入翌日の評価は、アプリ経由の購入者にアンケートを通知してスターレイティング(星の数での定量評価)とコメントで回答していただいています。直接的な顧客接点としてSNSも運用していますが、主に広告などを統括するイベントプロモーション部隊が販売促進を目的に運用しています。このため、VOCはコールセンターへの問い合わせが中心です。
横関 電話、アンケート、メール、チャット、SNS(X:旧Twitter)、WebサイトのFAQ閲覧状況などからVOCが集まります。とくに重要視しているのは電話とアンケートで、番組やキャンペーンへの反響などを把握しています。電話はオペレータが問い合わせ内容を要約し記録しています。Xは当社でWOWOW公式アカウントを運用し、ソーシャルリスニングも行っています。
最近とくに課題視しているのが電話チャネルでの「VOCの質と量が減っている」ことです。かつて、顧客接点がほぼ電話だった頃は、お褒めの言葉も含めたお客様の状況を把握できていましたが、近年、電話をかけるのは「映らない」などのトラブルか、放送リクエストが大半を占めるようになりました。もはやコールセンターの声だけを見ていては「お客様がサービスのどこに価値を感じてくださっているのか」といったロイヤルティの本質がわからず、経営判断に役立つ情報が得られにくくなっています。解決策のひとつとして、約1万人のロイヤルティが高い顧客を対象に、月に2度アンケートを行う「WOWOWファンボイス」という仕組みをつくりました。また、1対1で行う定性調査手法のひとつである「デプスインタビュー」も行っています。
岡田 電話、メール、チャットの3つがVOC収集チャネルで、電話が8割を占めています。電話は月間4〜5万件ほど入電がありますが、このうちVOCは5000〜8000件ほどです。オペレータがVOCに該当するものにチェックすると即記録される仕組みです。SNS(X:旧Twitter)はマーケティング部門で分析し、日次で全社へ共有されています。コールセンターでも投資家や顧客のダイレクトな声として日々の対応に活用しています。
2024年03月20日 00時00分 公開
2024年03月20日 00時00分 更新