2024年4月号 <インタビュー>

ガートナージャパン 池田 武史 氏

池田 武史 氏
ガートナージャパン
リサーチ&アドバイザリ部門
インフラストラクチャ&セキュリティ
バイス プレジデント アナリスト
池田 武史
(Takeshi Ikeda)国内外通信事業者、外資系ソフトウエア・ベンダーでコミュニケーションの研究などに幅広く従事。2010年ガートナージャパン入社。企業や組織へのデジタル推進に関わるアドバイスを提供するほか、ネットワーキングとコミュニケーションの観点からITインフラ戦略に関する支援・助言を行うアナリストとして活動。

受注だけが自動化対象ではない
「マシン・カスタマー」の未知なるインパクト

米ガートナーが、テクノロジートレンドのひとつとして提唱する「マシン・カスタマー」。AIなどによる顧客対応の自動化が進み、顧客自体がマシンに置き換わる日も近い。受注の自動化に加え、発注すらも自動化する。企業にとって最適な購買体験の提示は、インテリジェントなオペレーションに進化していくという。

──米ガートナーが昨年、今後3年間に、ビジネスに影響をおよぼすテクノロジートレンドとして“マシン・カスタマー”を提唱しました。

池田 日本国内でも関心は高く、ご相談が増えています。マシン・カスタマーの定義は、“支払いと引き換えにモノやサービスを自律的に交渉・購入できる、人間以外の経済主体”。米ガートナーが提唱し、ディスティングイッシュト バイスプレジデント・アナリストのドン・シャイベンライフが中心となり、書籍『When Machines Become Customers』(マーク・ラスキーノ氏 共著)も出版しました。日本語に言い換えると“顧客ボット”です。生成AIの台頭により、今後の顧客は、人間だけに限らない社会になっていくことを示唆しています。

──マシン・カスタマーの考え方はいつごろ生まれたのでしょうか。

池田 機械(マシンやシステム)が自動的に発注するという考え方自体は、10年以上前からあります。シャイベンライフは、“近いうちにIoTで、世の中のあらゆるモノがつながる。単につなげるのではなく、インテリジェントにつながることが重要”と語っており、マシン・カスタマーの重要なエッセンスになっています。

 2023年は、生成AIが大いに進化を遂げたことで、人間とマシンのインタラクション(相互作用)が拡大しました。この傾向は、さらに加速するでしょう。購買などの行動を、マシン同士が人に代わってやり取りする時代が、いつ来てもおかしくはない。すでに、日常的に繰り返し購入する洗剤などを、ボタンひとつで発注できる仕組みはかなり前から存在し、購買行動の自動化は進みつつあります。マシン・カスタマーはその延長線上にあり、AIによるインテリジェンスを加えたものです。基本的な考え方は、人のニーズの把握も自動化することにあり、自立して物事を動かすことが前提。上手く設計ができれば、定期的な購買の煩わしさから消費者を解放し、CX(顧客体験)を高め、ビジネスに与えるインパクトも相当大きいと予測しています。

購買を自動化するだけではない
より良い意思決定を支える仕組み

──すでに導入された事例はあるのでしょうか。

池田 米HPでは、2013年から「Instant Ink」というサービスを開始しています。印刷枚数に応じて毎月の支払いをするサブスクリプションビジネスの一種。トナーなどの消耗品の残量が少なくなると、ネットワークに接続されたプリンタから、自動的にインクが注文される仕組みです。インクがなくなる前に自動で注文されるため、インク切れというマイナス体験がなくなるほか、余剰在庫を抱える心配もありません。現状はまだ、人の意思決定権が強く、マシンはあらかじめ決められた行動を実行するのみです。しかし2025年までに、マシンの裁量が高まると予測されています。

 インクの例で言うならば、毎年50枚の年賀状を出していると仮定しましょう。足りなくなるであろうインク量を予測して、印刷する時期に合わせてトナーを注文してくれる。さらに、年賀状のデザインを考え、送る相手の選定までもしてくれる。インクをより安く買うために、さまざまなオンラインショップを比較して、最適な商品を見つけ出してくれる。マシンから人はこれらの提案を受け、その内容を了承するだけで、一連の発注はマシンが最適なタイミングで実行します。

──マシン・カスタマーによるサービスが浸透するのはいつ頃でしょうか。

池田 2036年ごろには、人のニーズを推測した、マシン主導のサービスが実現されると言われています。この頃に、まだ年賀状を出す風習があるかは分かりませんが、類似した定期的なイベントに伴う消費行動は完全に自動化され、人が介在しない状況は実現できるでしょう。当社では、マシン・カスタマーが“2028年までには、デジタル・ストアフロントの20%を陳腐化する”という仮説も立てています。とくに、BtoBの領域では、部品や材料の定期的な発注は、自動化が急速に進むと考えています。

 データの記録、収集、分析、予測の一連のプロセスをすべて自動化し、より良い意思決定や判断、提案をタイムリーに提供する仕組みを構築することで、ビジネスが加速します。受注側と発注側、双方の競争力が向上するでしょう。IoTやアプリなどの領域では、BtoCでもデータの収集、分析が可能と、同様にマシン・カスタマーの導入が進んでいくと推察しています。ただし、購買行動のすべてをマシンが奪ってしまうわけではありません。顧客の状況を繊細に読み取る接客などは、まだまだ機械には難しく、人が行う必要があるでしょう。商品やサービスの選択を支援し、選択肢が増える仕組みを支えると捉えることが適切です。

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会員限定2024年03月20日 00時00分 公開

2024年03月20日 00時00分 更新

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