市界良好 第130回

2023年2月号 <市界良好>

仕事の段取り

市界良好

<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

仕事の段取り

秋山紀郎

 ウィズコロナを前提とした経済活動の再開によって、街中に人があふれている。先日、百貨店の人気スイーツを購入しようと思い、念のために事前に電話をしたところ、在庫が残り少ないことが分かった。「在庫僅か」と聞くと、何が何でも欲しくなるのだが、すぐに店舗に行ける状態でないことを伝えると、取り置きの提案を受けた。ありがたく提案を受け入れ、その日のうちに購入することができた。百貨店に行ってから売り切れに気付く事態を避けられたので、事前に電話しておいて良かった。引き取りに来ない客もいるかも知れないのに、機転を利かせた取り置きの対応に感謝である。

 最近、提案依頼があったにも関わらず案件自体が流れてしまうことがあった。ソリューションの提案活動、つまり提案書作成にかかる負担は、依頼元のユーザー企業の想像をはるかに超えていると考えた方がいい。訪問前後で打ち合わせを何回も行い、提案内容のすり合わせと文章作成、そのレビュー、提案の承認プロセスもある。だからこそ、ユーザー企業の都合による案件流れは避けなければならない。百貨店に引き取りに行かなかった商品は、翌日、他の人に売れるかも知れない。しかし、失ってしまった提案活動の時間は取り戻せない。

 かなり以前の話だが、提案結果を説明したいと言われたので、いそいそと客先に伺ったら、気まずい様子で案件流れを伝えられたことがあった。そうであれば、相手を呼ぶのではなく、ご自身で事情説明に出向いてほしいと思ったエピソードである。

 案件が消滅した理由を尋ねてみると、予算承認が得られなかった、効果が期待できないと指摘されたなどだ。これらの社内事情は分からなくもないが、外部のベンダーからみると、仕事の段取りの問題と言わざるを得ない。ではなぜ、そのような事態が生じるのか。当てにしていた予算がなくなった、上司の朝令暮改を受けたなど原因はさまざまだろうが、もしかするとオンライン会議の弊害かも知れない。今やオンライン会議は、社内外問わず普通になっている。ややもすると、一日中会議という事態も生じかねない。会議が目白押しになると、整理してから次の会議に臨めず、事前検討や資料準備もおざなりになって、口頭のやり取りが多くなる。また、オンラインでは担当者の想いや熱意などの温度感が伝わりづらく、微妙な心境の変化を感じ取ることも困難である。その結果、意思確認や合意形成が表層的になりがちで、オンライン会議であったことが影響し、さまざまな社内確認のレベルが浅くなっているのではないか。

 この問題は、ユーザー企業内におけるコンセンサスの欠如だけでなく、ベンダー側でも起きている。提案書の確認を対面で関係者と行わずに、在宅などリモートで1人で行うと甘くなる。各担当者の英知を結集して提案書に仕上げていく工程も、オンライン会議では難しい。結局、提出期限に間に合わない事態を招くこともある。

 案件流れも提案遅れも、結局は、どのような準備をするのか、オンライン会議でよいのか、対面が必要なのか、関係先や上司の合意がしっかりと取れたのか、有識者が集まったのか──段取りの問題である。

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年01月20日 00時00分 更新

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