市界良好 第173回

2026年9月号 <市界良好>

秋山紀郎

コラム

第173回

全件チェック

 「コールセンター白書2025」によると、音声認識システムの導入率は38.5%であり、今後導入予定と回答した24.2%を合計すると62.7%になる。これまでコンタクトセンターの対話をテキスト化する技術は、「あったら良い」というオプションの位置づけだったため、音声認識を導入するためには、効率的にFAQ表示ができるなどの導入効果をアピールすることが求められた。最近は、オペレータが特定ワードを発話しているかどうかや、話速、音かぶり、抑揚などを抽出する音声認識技術を活用した品質評価が注目されている。生成AI技術によって、オペレータの説明に対して顧客が十分に納得できていない、といった状況を会話の文脈や感情表現などからキャッチできると期待されている。そして、このようなチェックを全通話に対して実施可能になったことで、音声認識はセンターにおける標準的な機能という位置づけへと変化しつつある。

 全通話のテキスト化がない場合、評価者は、偏ったサンプルにならないよう平均的な通話時間のものを選ぶ、繁忙期などイレギュラーが生じていない時期の音声を選ぶなどの工夫をしながら、オペレータにフィードバックをする。それにもかかわらず、たまたま普段通りにできていない通話が選ばれたとか、相性の悪い顧客との応対が選ばれたなど、評価を受けるオペレータに不公平感が生じて面談で納得感が得られないことが多いという。はたしてそれは、本当にサンプルが偏っているからだろうか。

 対面のシーンではあるが、私が自家用車を手放すため、ある中古車買取業者に行ったときのエピソードを紹介したい。アポなしで店舗に行ったのだが、少し年配の、いやベテランの担当者が出迎えてくれた。こちらの状況を説明して、買い取り額の見積もりをいただいた。その際、自動車ディーラーではなぜ安い値段しかつかないか、などの裏事情のような話をしてくれた。まだ決める段階ではなかったため、その場を後にしたのだが、何となく良い気分はしなかった。それから1カ月後、下取り目標額を決めていたため、再度この店を訪問した。前回と同じベテランが担当してくれた。今度は、他の買取業者に関する陰口のようなトークが繰り返された。私の話を聞こうとせず、価格も見合わないため、その店舗での下取りをしないことを伝えて店を出た。これまでの対話を振り返れば、他店の悪口ばかりを私に話していたと思う。もし、コンタクトセンターのような通話録音が営業現場にもあり、応対品質の観点からフィードバックを受ける仕組みがあれば、この方の営業姿勢は変わっていたと思う。センターの管理体制がいかに優れているかを再認識し、また、対話術に同じ癖のある人は、フィードバックを受けて意識的に改善しない限り、同じ傾向が繰り返されると思った。

 コンタクトセンターで全通話をチェックすれば、必ずオペレータが納得するということはない。サンプリングであっても、オペレータの癖は変わらないと思う。1つの対話という事実に対して、音声認識データに基づいた客観的な指標だけでなく、評価者がオペレータに納得してもらえるような伝え方の工夫や努力が常に大事である。

PROFILE
秋山紀郎(あきやま・としお)
CXMコンサルティング 代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

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会員限定2026年08月20日 00時00分 公開

2026年08月20日 00時00分 更新

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