座談会 <AI時代の顧客対応>
生成AIの活用が進み、自己解決が当たり前になりつつある。このため、人が対応するコンタクトセンターには、より複雑な感情や背景を持つ問い合わせが集まっている。美容、エンタメ、金融の各業界で顧客接点を担う3社が、AI時代に求められる顧客対応の価値を議論した。
<パネリスト>(順不同)



<モデレータ>

山下 生成AIやボイスボットの普及によって、コンタクトセンターを取り巻く環境は変わり始めています。自己解決を望む顧客も増え、人が対応する機会は減っていくと言われています。その半面、それだけに“人だからこそできる対応”の価値が、際立ってくるともいえます。そこで本日は、「AIによって現場はどう変わったのか」「人の問いが顧客体験をどう変えるのか」「AIと人はどう役割分担すべきか」、そして「これから求められる問いの力」について議論したいと思います。まずは、AI活用により、現場がどう変化したかについてうかがえますか。
榊原 アルビオン「ポール & ジョー」「アナ スイ」のECサイトでは、2025年からAIによるカスタマーサポートを本格的に導入しました。夜間など営業時間外の問い合わせを補完する目的でした。それが、想像と反し、昼間にも利用されるようになりました。これは、顧客にとっては、“AIという新しい問い合わせチャネル”が増えたのだと思います。「AIなら気軽に聞ける」といった使われ方ですね。その結果、問い合わせ件数は増えました。その中で興味深いのは、購入前の相談が増えたことです。商品を比較したり、自分に似合うかを相談したりする入り口としてAIが機能し始めている。顧客が、「今日はAIに聞こう」「今日は人に相談しよう」と、その時の状況や気分でチャネルを使い分けている印象です。
高野 WOWOWコミュニケーションズでは以前から、「電話が中心の問い合わせをどうデジタルへ移行するか」がテーマでした。その中でFAQやボイスボットのPoC(概念実証)を進め、応対品質評価へのAI活用も始めています。顧客からは、「便利になった」といった反響を得るには、まだ至っていません。ただし、現場はAIへの関心が高く、業務でいかに活用できるかを主体的に考えています。単純な一問一答や定型的な案内はAIに任せ、人は“感情”や“体験価値”に関わる部分に集中する。その切り分けが、今後さらに進むのではないかと思います。
河田 SBI証券でも、AI活用は進めています。しかし、金融商品を扱う以上、ハルシネーションへの警戒感は非常に高いです。そのため、まずは現場のオペレータ支援として使い始めました。応対中に必要情報を表示したり、確認事項をサポートしたりですね。そして、電話が混雑した際にAIへ誘導するなど、お客様接点でも積極的に活用を始めました。ここで重要なのが、私たちが重視しているのは“効率化“だけではないことです。AIで自己解決率を高めながら、人が対応する場面でどう価値を出すか。その両立を常に考えています。
山下 皆さん、AIによって業務の効率化が進んでいますね。では、人だからこそできる価値はどこに現れると考えますか。
榊原 私は「答えながら問う」ことだと思っています。例えば、「この商品はありますか」という問い合わせに対して、「あります」で終わるのではなく、「プレゼント用ですか」「お急ぎですか」と問い返す。そうすることで、コミュニケーションが生まれます。生成AIは、(問い合わせに対し)該当する事柄をすべて提示することは得意です。しかし、「この人にはこれが合いそう」といった“背中を押す感覚”は、まだ人のほうが強いでしょう。AIの進化は速いため、将来的には変わるかもしれません。当社で、「買い物をしていて一番楽しい瞬間」に関するアンケートを実施したところ、顧客が価値を見出すのは“相談している時間”でした。「迷っている時」「相談している時」という回答が多かったです。だからこそ、その時間に投資をしていきたいと考えています。
高野 当社では、「見たい番組がある」という高揚感を持って加入されることが多いです。その気持ちを盛り上げる手伝いをするのが、人の役割だと思っています。解約時は、反対の状況になります。以前は、解約抑止を重視していましたが、現在は、「気持ちよく退会してもらう」視点も重要と捉えています。無理に引き止めるより、「また見たい番組ができたら戻ってきてくださいね」と言える関係性を作る。そのためには、顧客の感情やコンテキストを理解しなければいけません。求められているのは、単なる“正解”ではなく、「自分を理解してくれている」感覚だと思います。
河田 私は「問い=感じること」だと捉えています。例を挙げると、「パスワードを再発行したい」という問い合わせがあった際に、その背景には「今すぐ投資信託を買いたい」という本当の目的があるかもしれない。ですから、再発行について案内するだけでは対応としては、不十分なのです。さらに、顧客が、“今、話せる状態か”の見極めも大切です。移動中なのか、落ち着いて話せる状態なのか。そこを無視して一方的に説明しても、寄り添ったコミュニケーションにはなりません。人は、お客様の感情の揺れや空気感を察知しながら、タイミングよく言葉を差し込める。それがAIとの大きな違いだと思っています。
山下 “問い”という言葉が、「関係性をつくる行為」として語られているのが印象的です。しかし、顧客体験を損なう問いや対応もありますね。
榊原 一問一答しかできない対応は満足度を下げかねません。正しい返答をしても、「接客されている感じ」がしなければ冷たい印象を受けます。実は、電話やチャットは案外、感情が伝わります。例えば、面倒臭そうに応対している、早く話を終わらせたがっている。そういった空気は必ず伝わります。ですから、非対面でも、顧客に向き合い“接客する”感覚が欠かせません。
高野 顧客は、答えだけを求めているわけでもありません。「気持ちを分かってほしい」という欲求もある。だから、型どおりの質問を繰り返すのみでは、「それならAIでいいか」となってしまう。人が対応する以上、「安心できる雰囲気」をつくる必要があります。顧客が整理できていない事柄を、一緒に整理していく。そのプロセスに価値があると強く思います。
河田 “尋ねるタイミング”も重要ではないでしょうか。顧客は、「無理かもしれない」と思いながら、問い合わせをしてくることも多い。その、気乗りしないタイミングでオペレータが質問を重ねても寄り添えていない。反対に、“ここで聞いてほしい”瞬間に、一言添えられると、印象がぐっと変わります。モニタリングをしていても、特別な言葉ではなく、何気ない一言が顧客の感情を動かす事例をよく見かけます。

山下 AIが進化するほど、「人は何を担うのか」がより問われていきます。自己解決率が高まるほど、人にエスカレーションされる問い合わせは、難易度も感情の負荷も上がるといわれています。その変化を現場でも感じていますか。
榊原 以前は、「この商品はありますか」「在庫はありますか」といった問い合わせも多くありました。しかし現在は、ある程度、AIチャットボットで確認できるようになっています。その結果、人に対しては、「どちらが自分に合うと思うか」「(商品選びで)失敗したくない」といった、感覚的な答えを求められる相談が増えています。ですから、オペレータにも“販売員”に近い役割が求められるようになっています。そのため、正しい回答をするだけではなく、“この人はなぜ迷っているのか”を加味しながら会話をすることが重要になっています。
高野 エンタメ関連も同じですね。FAQで解決できることは増えている一方、人につながる問い合わせでは、顧客の感情が強く出ています。例えば、「楽しみにしていた番組が見られない」という問い合わせは、技術的な問題についてではありません。「今日この番組を見るために帰ってきたのに」という“期待”が含まれている。だからこそ、技術的に解決するのではなく、その期待にどう寄り添えるかが重要になります。AIが広がるほど、人は“感情の解像度”を高く持たないといけないのだと思います。
河田 変化はかなり感じます。以前は「操作が分からない」「どこを見ればよいか分からない」という問い合わせも多かったのですが、現在は、AIやFAQで解決できる環境を整備しています。それでも人に問い合わせてくるということは、すでに顧客の不満や焦りが高まっていることが多いです。ネット証券ではとくに、資産運用という目的があって問い合わせをされてきます。時間も限られているため、“ただ答えるだけ”では満足されません。「この方は今、何を不安に感じているのか」「何を実現したいのか」を理解しながら会話をしないといけない。今後さらに重要になる点だと思います。
山下 皆さんのお話から、“顧客の感情の解像度が上がっている”印象を受けました。AIによって効率化が進むほど、人はより高度なコミュニケーションを求められる。その時、現場育成も変わっていく必要がありそうです。
榊原 変わると思います。以前は「正確に答えられるか」が中心でしたが、これからは「どう寄り添えるか」「どう空気を作れるか」が重要になる。同じ説明をしていても、“相談しやすい人”っていますよね。そういう人は、話し方というより、顧客への関心の持ち方が違う。育成でも、単なる応対スキルではなく、「相手を理解しようとする姿勢」をどう作るかがテーマになっています。
高野 AI活用が進むほど、“人らしさ”の定義が変わっていく気がしています。以前は、「ていねいに答える」ことが人らしさだったかもしれません。しかし現状は、「相手の感情に合わせて空気を変えられる」「安心できる流れを作る」ことのほうが重要視されている。ですから育成でも、正しい応対を指導するだけでは足りません。どうすれば顧客が安心するか、前向きな気持ちになれるか、そこまで考えて教える必要があるでしょう。
河田 私も、「説明する力」より、「感じ取る力」が求められていると感じます。中でも、若い世代は、“ちょっと確認したい”くらいの感覚で問い合わせしてくることもあります。ですから、必要以上に堅くならず、「一緒に解決していきましょう」という姿勢を取ることが良いと思います。端的にいうと、顧客は“正解を得る”だけならAIでも得られます。しかし、「この人に相談して良かった」と思えるかが付加価値になってくると思います。
山下 そうなると、AI時代のコンタクトセンターは、“問い合わせ対応”から、“体験設計”へ変わっていくのかもしれません。
榊原 商品を買うだけならECで完結できます。しかし、「相談した」「迷った」「一緒に選んでもらった」という体験があると、そのブランドへの愛着度が変わる。だからこそ、人が介在する価値が残ります。
高野 当社でも、「加入して終わり」ではなく、その後どれだけ良い体験を積み重ねられるかが重要になってきます。問い合わせ対応も、その体験の一部です。だから、「困りごとを解決する」だけではなく、「いい会社だな」と感じてもらえるやり取りが必要です。
河田 金融も、詰まるところ“安心”だと思います。顧客は、「自分の判断で大丈夫かな」という不安を持っている。そこに寄り添えるかどうかが、今後さらに重要になると思います。
山下 AI活用が進むと、コンタクトセンターに顧客の声(VOC)が集まりにくくなると懸念されています。VOCの取り方そのものも変わるでしょうか。
榊原 美容関連では、ちょっとした雑談の中にヒントがあることも多いです。「実はこういう悩みがあって」とか、「前に別の商品で失敗していて」など。だからこそ、人が会話する価値は、問題解決だけではなく、“声を引き出す”ところにもあると思っています。
高野 自己解決が進むと、顧客がわざわざ問い合わせをしてこなくなる。つまり、声を上げない人が増えます。だからこそ、問い合わせ件数だけではなく、どんなタイミングで離脱しているのか、どこで迷っているのかを、データや行動から読み取っていくべきです。そうなると、人が対応する場面は、より“濃いVOC”が集まる場になっていくと思います。
河田 コンタクトセンターは、今後ますます“顧客理解の最前線”になっていくでしょう。AIで効率化されるほど、人が対応する瞬間の価値は高まる。だからこそ、「どれだけ早く終わらせるか」だけではなく、「どれだけ良い時間を提供できたか」に目を向けたいです。
山下 これまでコンタクトセンターは、問い合わせを効率よく処理する場所という見方が強かったと思います。しかし、今日のお話で、“顧客との関係性を深める場所”へ変化していくと感じました。
榊原 AIが普及すると、人が対応する理由がより問われるようになると考えます。正確性や速さではなく、「このブランドに相談して良かった」と感じてもらえる体験が意味をなす。美容関連はとくに、“気持ち”が購買に大きく影響するため、人が寄り添う意味は大きいと思います。
高野 エンタメも同じで、感情を扱う仕事といえます。見たい番組がある、楽しみにしていたなど、こうした気持ちにどう伴走できるか。AIによって便利になるほど、人には“感情を動かすコミュニケーション”が求められていくと見ています。
河田 金融も、最終的には「安心して任せられるか」だと思っています。AIと共存する時代だからこそ、人は“信頼をつくる役割”を担う。そのためには、答える力だけでなく、背景を察し、適切な問いを投げかけられる力が、これまで以上に重要になるのではないでしょうか。
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