わたちゃんのかすたま~えくすぺりえんす 第127回

2025年9月号 <わたちゃんのかすたま〜えくすぺりえんす>

渡部弘毅

コラム

第127回

診察室の「患者経験価値」!? わたちゃん的PX入門

 お医者さんの前では従順になる、わたちゃんです。最近はほぼ毎日運動していて血圧も安定しているので、「僕は昔みたいに毎日飲んだくれてません!! もう降圧剤を飲まなくていいんじゃないですか?」と言いたいところですが、「このまま薬を続けてキープしましょう」と、言われると反論できなくて、素直に「はい。がんばります」と返事してしまいます。なんなんですかね。

 さて、この「なんなんですかね」という感覚。実は、医療の世界で最近注目されている「Patient Experience」、略してPXに少し関係があるかもしれません。PXとは、日本語では「患者経験価値」と訳されることもあり、患者さんが受診や入院といった医療サービスを受ける中で経験する、診察、移動、食事、手術など、すべての事象を評価する指標です。

 これまで医療機関の評価には「患者満足度(PS)」が用いられることが一般的でした。PSは、患者さんが持つ期待と実際のサービスのギャップによって左右される抽象的な概念です。一方、PXは具体的な「経験」を評価するため、より客観性が高い概念とされています。また、PSの尺度は標準化や信頼性・妥当性が課題でしたが、PX尺度は科学的な検証がされています。このため、PXは「PSの進化形」とも言われています。

 なぜPXが注目されるようになったのでしょうか? PXは、医療の質の中核特性である「患者中心性」の質指標であり、評価の主体は患者です。患者中心性とは、「患者の意向・ニーズ・価値を尊重した医療の提供」です。PXに関するエビデンスも多く蓄積されており、患者行動への影響が報告されています。さらに、退院後の受診や入院といった医療リソースの利用、病院スタッフの離職、そして病院の財務実績とも関連することが報告されているのです。だからこそ、PXは集団の健康、最適な医療費と並んで「医療の質の3つの大目標」に掲げられるほど重視されています。欧米では政府主導でPX調査が広く実施され、医療機関の認証や診療報酬制度にも利用されています。欧米の医療機関の経営トップの約90%が「PXは最優先課題の1つ」と回答しているという調査結果もあるほどです。

 国内でもPXへの取り組みが進んでいます。例えば、国民健康保険 小松市民病院では、外来・入院患者へのPXサーベイを実施し、その結果を基にさまざまな改善に取り組んでいます。患者さんやスタッフからの「ありがとう」を集める「ありがとうBOX」の設置やPX letterの発行、院内案内板の改善、PXサーベイで評価が低い食事の提供方法や内容の見直し(地元食材、セレクト食、メッセージカード) などを行っています。

 ということで、次回の診察では勇気を絞って、今のライフスタイルを説明して薬を減らす相談をしてみます。でも、あの白衣姿を見るとどうしても萎縮してしまうんです。「PXの第一歩は、まず白衣を脱ぎ捨てることだ!!」とか、わけのわからない主張をしてみようかな。

図 PX(患者経験)とPS(患者満足度)の比較
図 PX(患者経験)とPS(患者満足度)の比較
PROFILE
ISラボ 代表
渡部弘毅
職業:顧客経験価値にこだわる戦略立案&業務改革コンサルタント
過去勤めたことのある企業:日本ユニシス、日本IBM、日本テレネット
著書『ファンをつくる顧客体験の科学 「顧客ロイヤルティ」丸わかり読本』(2023年11月、リックテレコム刊)
週末の過ごし方:
<ケース1>隅田川あたりをぶらぶら散歩して浅草で飲んだくれたあと銭湯で汗を流す
<ケース2>スポーツジムでヨガレッスンを受けて汗を流す

2025年08月20日 00時00分 公開

2025年08月20日 00時00分 更新

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