ミスマッチを防ぐ「共感力」 選ばれるための採用面接 第6回

2025年3月号 <ミスマッチを防ぐ「共感力」 選ばれるための採用面接>

松下公子

実践編

第6回最終回

応募者が“話しやすさ”を実感する
「聴き方」「フィードバック」のポイント

採用面接は、応募者の能力や適性を見極める場であると同時に、応募者に企業の魅力を伝える重要な機会でもある。そのため、応募者面接官には、高いコミュニケーション能力が求められる。深いコミュニケーションで、面接は単なる選考ではなく、応募者との信頼を築く重要な場へと変わるだろう。最終回は、面接官が知っておきたい「聴く」技術と、効果的なフィードバックの方法について解説する。

PROFILE
STORY 代表取締役
STORYアナウンススクール 代表
松下公子
1973年茨城県鹿嶋市生まれ。元テレビ朝日系列アナウンサー。2019年、STORYを設立。たった1人、たった1社に選ばれる話し方、伝え方を指導。1人に選ばれるプレゼン手法「共感ストーリー」をメソッド化。

 「きく」には、3つあることをご存じだろうか?

(1)「聞く」:表面的な言葉をそのまま受け取る。
(2)「聴く」:応募者の言葉の裏にある思いや背景を想像しながら受け止める。
(3)「訊く」:深掘りするために適切な質問を投げかける。

 面接官として大事なのは、(2)「聴く」と(3)「訊く」の2つだ。

 「聴く」とは、応募者の話をただ耳に入れるだけでなく、深い関心を持ち、相手の意図や気持ちを理解しようとする姿勢を指す。言葉だけでなく、声のトーンや間、表情からも情報を得ることで、応募者の本質に近づくことができるのだ。

 一方、「訊く」は、具体的な質問を通じて相手の考えや経験を引き出す質問の訊く。例えば、「その経験を通じて学んだことは何ですか?」などの掘り下げる質問をすることで、応募者の価値観や行動パターンを深く理解できる。

 この2つを意識的に活用することで、応募者が持つ本来の魅力や能力を見極めやすくなり、採用のミスマッチを防ぐことができる。単なる形式的な面接ではなく、対話を通じた深いコミュニケーションが鍵となるのだ。

図 3つの「きく」
図 3つの「きく」

話を遮らずに聴くテクニック

 応募者が話をしている最中、面接官が焦って次の質問を投げかけたり、無意識に話を遮ったりすると、応募者は話しづらさを感じてしまう。これを防ぐために有効なテクニックが「黙ってゆっくり1回うなずく」ことだ。この間を作ることで、応募者は自分の考えを整理し、さらに深い話を展開することができる。

 素直に感じたことをフィードバックすることも重要だ。応募者の話を聞いた後、面接官としての感想を率直に伝えることは、応募者にとって貴重な経験となる。

 例えば、以下のようなフィードバックが効果的である。

「今のお話から、〇〇さんの課題解決能力が伝わってきました」
「その経験を共有してくれてありがとうございます。とても興味深かったです」

 ただし、感想は応募者の評価を左右する判断材料ではなく、あくまで「感じたこと」を伝えるにとどめよう。

 面接では、時に課題や失敗について尋ねる場面もあるが、その際、ネガティブな印象を与えない工夫が大切である。ネガティブな質問をせざるを得ない場合は、ポジティブ質問に変換したい。例えば、「なぜ前職を辞めたのですか?」という質問を、「前職での経験を次の職場でどのように活かしたいですか?」と置き換える。これにより、応募者の前向きな意欲やビジョンを引き出すことができるのだ。

 面接中に応募者が言葉に詰まる場面もあるだろう。沈黙が続く応募者への対応法は「その意味を訊く」ことだ。「どうしましたか?」「少し考えてもらって大丈夫ですよ」といったフォローをすることで、応募者が安心して話を続けられる環境を作る。さらに、「その沈黙にはどんな意味があるのでしょう?」と、あえて沈黙自体に関心を示すことで、応募者が新たな視点で考えを整理する手助けにもなるだろう。

 言葉にならない言葉や、応募者が言葉で表現できない部分は、「表情」や「間」から読み取ることができる。例えば、話している最中の微妙な笑顔や答えるまでの一瞬の沈黙にはその人の本音や心の動きが現れることがある。それは、何かに対して躊躇している証拠かもしれない。

 面接官としては、こうした微細なサインを見逃さずに観察し、応募者の本音を引き出すことが求められる。それにより、応募者が抱える不安や本気度をより深く理解し、適切な対応ができるようになる。

話が脱線する人には要点を確認

 話が長くなったり、脱線してしまう応募者には「要は、〇〇ということですね?」と要点をまとめて確認することが有効だ。この一言によって、応募者自身も話の整理ができ、面接の流れをスムーズに戻すことができる。とくに長時間にわたる面接や緊張している状況では、話が逸れてしまうことが多い。面接の目的に沿った重要な情報を効率的に引き出すことができる一言だ。

 面接の締めくくりには、応募者の意欲や本気度を探る質問を投げかけると良い。

「もしこのポジションに採用されたら、最初にどんなことに取り組みたいのか?」
「弊社のためにどんな貢献ができると考えているのか?」

 応募者の具体的な答えから、どれだけ準備をしてきたか、また、どれだけ本気でこのポジションを望んでいるかが伺える。

 採用面接は、企業と応募者が「お互いを知り合う場」であり、企業が自らの魅力を伝える重要な機会だ。単なる選考の一環ではなく、応募者にとっては人生を変える可能性を秘めた瞬間でもある。その責任を胸に、応募者の話に耳を傾け、ポジティブな意欲を引き出せるよう努めよう。

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会員限定2025年02月20日 00時00分 公開

2025年02月20日 00時00分 更新

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