心地よさ×好印象×付加価値を届ける ブランドコミュニケーションの設計図 第3回

2024年9月号 <心地よさ×好印象×付加価値を届ける ブランドコミュニケーションの設計図>

山下未紗

戦略編

第3回

心地よさを提供し「評判」を生む
コールセンターが担う「ブランドの顔」

前回は、顧客エンゲージメントの強化について詳述した。とくに“おせっかい”の重要性について言及し、顧客に対する関心と背景理解が、顧客理解や顧客エンゲージメントの向上につながることを示した。コンタクトセンターは、ブランドの顔として機能し、顧客との長期的な関係を構築する重要な役割を担う。今回は、その具体的な戦略と方法について掘り下げる。

PROFILE
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山下未紗
コンタクトセンター業界20年、顧客関係構築の専門家。ブランドPRにも携わり、現在はフリーランスなおせっかいさんとしてブランド成長におけるパーソナライズなコミュニケーションをアドバイス。

 ブランド認知を上げていくことは、言うまでもなくとても重要である。モノがあふれるこの時代に、持続可能な競争の優位性につながる可能性があるためだ。しかし、その活動は短期的な成果が見えづらい。

 「認知」といってもイメージがわきにくいため、「評判」と置き換えてみよう。「評判」を生むための育成プランやコミュニケーションを描いてみることで、新たな顧客視点を持ち今あるサービスをコンタクトセンター側でより一層よいものに磨けるきっかけにつながっていく(図1)。

図1 「評判」を生むためのコミュニケーションプロセス
図1 「評判」を生むためのコミュニケーションプロセス

ブランドの顔としての自覚

 コンタクトセンターのスタッフは、「ブランドの顔」として誇りを持つことが大事だ。ブランド理解、商品理解、顧客理解を推進する仕組みを運用し、コミュニケータがブランドの顔としての誇りを持てるような働きかけをしていく。

 具体的には、「そのブランドが顧客とどういう関係を築きたいのか?」「どのようなコミュニケーションを紡いでいきたいのか」ということを文脈化することをおすすめする。1件というデータではなく画面の向こうに実際にお客様がいるイメージを常に持ち、プロダクトやサービスのスペックやお得さだけでなく、「そのプロダクトやサービスを利用してよかった」と心から思ってもらえるコミュニケーションを磨いていく。前月号でも記載した背景を理解するステップを通じて、顧客理解をしていきながら、そのブランドの大事にしている価値を伝えていくとよい。

 例えば、定期コースを利用している顧客から「商品が余っている」と問い合わせが入った場合、単純に次回発送日を変更するだけにとどまらず、「なぜその顧客の商品が余ってしまったのか?」「このプロダクトを通じてどんな風になりたいと思ってお使いいただいていたのか?」ということに興味関心を持ち、尋ねることで顧客の状態が理解できるはずだ。状態が理解できれば、その顧客に合わせた寄り添いや提案につながり、顧客にとっても「連絡してよかった」と思うきっかけを作ることにつながっていく。ブランドの顔であるということをどのチャネルを使ってコミュニケーションをとっていても必ず忘れない大事なマインドとして置いておくことが大事になる。

おせっかいの重要性

 おせっかいとは、見返りを求めない行動だ(図2)。顧客に対する興味関心を持ち、相手を理解した後に発揮される部分となる。

図2 「おせっかい」の重要性
図2 「おせっかい」の重要性

 先ほどの定期顧客の商品が余ったケースでいえば、その顧客を理解したうえで、より実感していただける使い方や飲み方の提案だけにとどまらず、プロダクトの背景やストーリーを織り交ぜながらブランドらしさを伝えていけると良い。経験上、DMや同梱のツール、メルマガなどを定期的に配信しているからといって顧客はブランドやプロダクトのことを正しく理解しているとは限らない。そうした思い込みは、いったん捨てたほうがよい。これは、配信している内容に問題があるとか、顧客の理解度が低いという解釈ではなく、ブランドとの接点は、顧客のライフスタイルの中のほんの一部であるということを正しく理解したほうがよいということだ。日常の暮らしの中で、そのブランドに触れている時間は多くない。それを理解したうえ、コンタクトセンターでは、情報のヌケ・モレを少しずつ補うことや、実際に使っているときに思い出してもらえるきっかけをつくることを目指したい。

 筆者が以前携わっていたブランドは、100%天然由来のヘアケアのシャンプーで、「オールインワンシャンプー」という機能的価値を持っていた。髪の長さに合わせた適量を使うことで、翌日の髪の状態に満足いただけるような仕様で作られていた。しかし、顧客のなかには、今まで使っていたものと同じ量で使い続けるケースもあった。そうすると、「思っていたものと違った」という残念な気持ちを生み出してしまうこともある。顧客が選んだ商品が顧客自身に合う商品になって好きになってもらうためには、大事な想いや使い方のポイントを、接点を持つたび、必ず繰り返し伝えていくことだ。スペック的な情報だけをマニュアルに落とし込むのではなく、プロダクトの誕生秘話や開発秘話、ストーリーなどを収集していき、コミュニケータが自分の言葉で語れるようになるようなワークショップなども展開していくとよい。いかにコミュニケーションにおける情報の引き出しを多く持てるかが重要だ。ブランド理解や商品理解をしたうえで、顧客を理解して、情報を編み込んで提供していく。こうした取り組みは、必ず経営貢献につながり、唯一無二のブランド構築へ近づいていくはずだ。

 次号では顧客との関係性を深めるための新しいアプローチや、ブランド認知度を高めるための具体的な施策を詳しく解説していく。

2024年08月20日 00時00分 公開

2024年08月20日 00時00分 更新

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