7月30日、月刊コールセンタージャパン編集部は、オンラインセミナー「コンタクトセンターの未来を考えるセミナー2024 Vol.1」を開催した。
基調講演では、青山学院大学経営学部マーケティング学科の小野譲司教授が登壇。「顧客ロイヤルティの深層 データに見る『感情』と満足度の相関関係」と題して、日本版顧客満足度調査(JCSI)の結果をベースに、顧客満足のメカニズムを、「9つの快感情」から分析、解説した。
対象となった各種業種・業態を、快感情の「感動指数」と不快感情の「失望指数」によるグラフでまとめ、顧客の感情経験について解説した。
例えば、テーマパークは感動指数が高いが、それでも不快の感情が生じるのは、混雑状況や天気に左右される点が大きく関係。同じく感動指数の高いケースとして野球観戦があるが、「ひいきのチームの勝敗」も大きく関わってくることが、失望指数を左右する決め手となる。また、コンビニエンスストアやスーパーといった生活インフラに関わる業種では、感情的な経験が比較的少ない。「存在して当たり前」の感覚が顧客にはあるため、品物が少ないなどの通常のサービスが供給されないことが不快感情につながっているようだ。
なお、このマッピングでは、「感情的な経験が少ない」「不快感情が起こりやすい」に位置している業種ほど、コールセンターへの投資が大きく、力を入れている傾向がある(銀行、携帯電話、証券、保険、クレジットカードなど)。「失望体験のリカバリー」という役割が大きいと捉えることもできそうだ。
さらに小野教授は、顧客ロイヤルティの高さを、ピラミッド状(ライト(低)→ミドル→ヘビー→ロイヤル(高))で表現した「ロイヤルティラダー」を示し、ファンの度合にあたる段階によって、顧客の感動のツボが変化することを示した。
テーマパークを例えに、ライト層の顧客は、場内の座席や設備の配置が分かりにくいことを不快と感じる。しかし、ロイヤル層はすでに配置を熟知しているためさして気にならない。そのぶん、従業員が自身のニーズを詳細に把握しているといった点に感動のツボがあることなどを取り上げて説明した。
小野氏は、「感情を伴う経験は、記憶に残りやすい性質がある。だからこそ、顧客ロイヤリティ工場のため、断片的でも記憶に残る、あるいは次に購入する際に再生される体験が求められるのだろう。顧客満足や顧客価値といったデータのみを注視するのではなく、顧客体験も含めて考えるべき」と締めくくった。
事例セッションは、テーマ「顧客も気づかない『真のニーズ』を探す! データ分析・活用の先進事例の検証」をテーマに実施。パネリストに、あいおいニッセイ同和損害保険の旭 正道取締役専務執行役員と、アルティウスリンク デジタルCX統括本部 DX戦略本部 データ戦略部の赤井隆晋部長を迎え、モデレーターは編集長の矢島竜児が務めた。
旭氏は、2004年から展開するテレマティクス自動車保険の事例を解説。従来は、「事故が起きた後に役立つ商品」だった自動車保険が、DXの活用で補償のみならず、まずは事故を起こさせないこと、また事故が起きたとしても、早期回復を目指すサービスを提供している点が特徴だ。そこから得られるデータを活用して、社会や地域課題の解決に挑んでいることに言及した。
約190万台の走行データを、デバイスを使って取得。運転特性から、事故を起こしにくいアドバイスをするだけでなく、道路の状況も把握しているという。その情報を、自治体と共有し、安全管理のための対策を実施し、効果の検証までを行うPDCAサイクルを回している。
また、ファン作りにも注力していると言う。旭氏は、「地域社会の困りごとを解決するところからスタートし、そこを起点に自社のファンを広げていこう
という意識が社内に浸透している」と語った。
赤井氏からは、コンタクトセンター運営企業として、顧客の声(VOC)をいかにクライアント企業の経営貢献に生かす事例を紹介された。顧客も気づかない真のニーズを探し、UI/UX改善事例、FAQ・チャットボット最適化事例による効果を説明した。
UI/UX改善では、コンテンツのデザインを最適化することで、離脱率を軽減。それにより、入電削減効果を、約8カ月で-0.9%にした。また、FAQ・チャットボット最適化事例
では、コンタクトリーズン分析からFAQ、チャットボットのチューニングを実施。さらに、どういった場面で不便を感じたのかについて、顧客に深掘ってヒアリングしてVOCに登録。そうすることで、利用環境の解像度が上がったのに加え、ペインポイントも見つかった。
いずれも、顧客やクライアントと密接に接して取得したデータを、顧客のニーズに活用できた好事例だった。
2024年08月13日 16時45分 公開
2024年08月13日 16時45分 更新
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