ボイスボットの「自然な対話」

2026年8月号 <FOCUS/ソリューション>

ソリューション

「人間らしさ」より「スムーズに解決」を優先
ボイスボットの“自然な対話”のポイント

顧客体験(CX)の向上を目的として、ボイスボットによる自然な対話の実現を目指す取り組みが増えてきた。だが、顧客対応における「自然な対話」とは、人間らしい反応や音声表現だけではない。顧客対応の「基礎部分」ともいえる、「迷わず、待たされず、用件を完了できること」が重要だ。自然な対話を実現するために、企業は何をどう設計し、いかに検証すべきか。ベンダー各社の知見から探る。

 顧客がボイスボットに求めているのは、人間らしい声ではない。迷わずに問題解決できる体験だ。

 生成AI、音声認識、音声合成の進化により、ボイスボットの適用範囲は、一次受付やFAQ回答にとどまらず、従来はオペレータが担っていた問い合わせ対応や手続きにも広がりつつある。一方で、利用者の期待値も高まっている。自動応答であっても、顧客体験を損なわない“自然な対話”が求められるようになりつつある。

 自然な対話のあり方について、『maestra(マエストラ)』を提供するvottia 取締役の岩浅佑一氏は、「自然な対話の実現は顧客対応の本質ではありません。顧客に余計な負担をかけず、用件を確実に前へ進めることが大前提」と指摘する。

 どれだけ音声が人間らしくても、「案内が長い」「何度も言い直させる」「応答が遅い」といった問題があれば、自然な対話とはいえない。とくに電話は、リアルタイムのチャネルだ。チャットやメールのように内容を目で確認できないうえ、対話のわずかな冗長さや遅延も、違和感につながりやすい。

 本稿では、自然な対話を実現する観点を、大きく「正確性の担保」「柔軟な対話能力」「寄り添い/パーソナライズ」の3つに整理した(図1)。

図1 ボイスボットの「自然な対話」の観点と工夫例
図1 ボイスボットの「自然な対話」の観点と工夫例

顧客対応の土台となる
正確な理解と案内

 1つめは、正確性の担保だ。そのうえでの大前提となるのが、音声認識と音声合成の精度だ。商品名や顧客情報を誤って聞き取れば、その後の回答や手続きも誤る。音声合成も同様で、誤読や不自然なイントネーションは、顧客に不安を与える。『QANTスピーク』を提供するRightTouch Tech Leadの齋藤成之氏は、「(ベンダーが)自社でチューニングしているモデルであれば、モデル側の調整をかけて不自然な発音を自然な発音にすることができます」と説明する。

 AIが参照して理解しやすいようナレッジデータの構造化も重要だ。構造化する際は、音声情報として伝えた際の理解しやすさを考慮したい。

 発話内容も同様に、理解しやすさを前提とした設計が欠かせない。有人対応のスクリプトをそのまま流用すると、長い前置きがあった場合、そのまま読み上げられることになる。顧客が一度聞けば理解できる長さに調整、長い案内が不可欠な場合は途中で確認を挟むことが有効だ。

想定外を受け止める
柔軟な対話設計

 2つめは、柔軟な対話能力だ。

 『MOBI VOICE』を提供するモビルス Product Strategy Division MOBI Products Unit Senior PMM Evangelist/生成AIプロジェクト導入担当マネージャーの近藤浩之氏は、「実際の顧客は企業が想定したシナリオ通りには話しません。言い直す、割り込む、考え込む、途中で別の質問を差し込む。ここにどう対応できるかが重要です」と話す。

 例えば、支店名や住所、番号を正確に覚えていない場合でも、同じ質問を繰り返すのではなく、地域名、郵便番号、番号の一部など、顧客が答えやすい手がかりから候補を絞り込むことで、会話を前へ進められる。これは人間のオペレータが日常的に行っている対応であり、生成AIの活用によって、ボイスボットでも実現しやすくなっている。

 ただし、生成AIを活用していても、単に「自然に会話して」とプロンプトを与えるだけでは、自然な対話は実現しにくい。どのような顧客を想定し、どの情報を最終的に取得し、どのような聞き方で負担を減らすのかを、具体的な振る舞いとして定義する必要がある(図2)。この際、「急かさない」「言い淀みを受け止める」「足りない情報だけを補ってもらう」といったオペレータ向けの応対ノウハウを、プロンプトや対話設計に落とし込むのがよい。

図2 自然な対話プロンプトの例
図2 自然な対話プロンプトの例

 手続きの途中の問い合わせ対応も欠かせない。人対人の対応では、「Aの手続きをしたくて問い合わせたが、途中でBについても確認したい」という場面は珍しくない。生成AIとナレッジを連携し、手続きを進めながら必要に応じてFAQを差し込み、回答後に元の手続きへ戻れる設計にできるかどうかも重要だ。

 復唱・確認は、正確性を担保し、不安を和らげる手段として有効だが、すべての項目を都度復唱すると対話のテンポが崩れやすい。必要な項目に絞るか、生成AIを活用して最後にまとめて復唱し誤りがある箇所だけ修正するなどの工夫が求められる。

 顧客が考える時間をどう待つかも重要だ。契約番号や証券番号のように、即答しにくい情報もある。音声認識の待機時間を一律に短く設定すると、発話の途中で認識エラーになりかねない。項目や顧客属性に応じて待機時間を調整し、「ごゆっくりお調べください」「見つかりましたか」といった声かけを組み合わせることで、顧客を急かさずに会話を進められる。こうした設計は、次に紹介する寄り添いにもつながる。

属性・状況に応じた
寄り添いの設計

 3つめは、寄り添い/パーソナライズだ。顧客属性や用件の緊急性、業務の性質によって、応対や音声表現を変えるという観点だ。技術的には発展途上だが、問い合わせ内容や顧客層に応じて、話す速さや待つ時間、発話のトーンを調整したり、相づちを打ったりする取り組みは今後広がるとみられる。

 例えば、外部システムやナレッジの検索などの処理が必要で回答までに時間を要する場合、「ただいま確認しております」「少々お待ちください」と伝えるだけでも、待たされている顧客の受け止め方は変わる。

 相手の発話がトリガーとなる相づちは慎重な設計が必要だ。『AI Worker VoiceAgent』を提供するAI Shift 執行役員 AIコールセンター事業統括の田島 努氏は、「相づちは、打つタイミングに加え、『はい』『承知しました』『確認します』『少々お待ちください』など、場面に応じた発話内容の選び分けが難しい」と説明する。音声だけのチャネルでは表情やうなずきが見えないため、文脈に応じた制御が欠かせない。

実際の応対に近い条件で
“自然な対話”を検証

 自然な対話の実現に向けた工夫をした後のテストと改善の体制も重要だ。現実の顧客対応で生じる違和感を見落とさないよう、現場の最前線であるSVやオペレータ、品質管理担当を巻き込み、実際の顧客発話に近い環境で試す必要がある。前出の近藤氏は、モビルスの導入において「顧客が言いそうなあいまいな用件や質問データをセンターで集めてテストを行い、問題解決力の向上を図っています」と説明する。

 また、生成AIを活用したボイスボットでは、応答パターンが無数に広がるため、人手だけですべてを検証することは難しい。そのため、対象ユースケース、合格条件、人に引き継ぐ範囲を、経営層と現場で事前にすり合わせておくことが重要になる。経営層は効率化やROIを重視し、現場は品質に慎重になる。本稼働の基準が曖昧なままでは、テストはいつまでも終わらない。

 人手による検証の限界を補う手段として、AIを活用したテストも始まっている。例えば、RightTouchは、AIオペレータの日々の応対品質を別のAIが評価し、その評価データをもとに課題を抽出してナレッジやプロンプトが半自動でチューニングされていく仕組みを取り入れている。

 また、AIの応対はリスクの度合いに応じて、リアルタイムでの全件確認から、日次の全件確認、サンプル抽出での確認、監視不要まで、4段階でモニタリング体制を使い分けることが有効という。

 「AIが自ら改善していく攻めの要素と、リスクに応じて品質を担保するガードレールのような守りの要素を両輪で設計する『Conversation Harness』の仕組みが、自然な対話の基盤である正確性を維持向上する重要な枠組み」(齋藤氏)。

図3 テスト・改善体制
図3 テスト・改善体制

音声対話は「総合格闘技」
コストを意識しつつ取り組む

 ボイスボットによる自然な対話について、AI Shift AIコールセンター事業部 AI Leadの杉山雅和氏は、「音声対話は“総合格闘技”のようなもの。さまざまな技術を連結しながら解決していく必要があります」と強調。プロンプトや音声認識、音声合成など、単一の工夫では自然さを実現するのは難しいとする。また、ROIの観点からも、すべての応対を高度化することが正解とは限らない。例えば、生成AIの利用に伴うトークン消費は無視できない。会話履歴や参照ナレッジ、回答生成に使う情報量が増えるほど、1応対あたりのコストや応答速度に影響するためだ。対象業務の入電件数や削減できる工数、顧客体験への影響を見極め、投資に見合うユースケースから設計することが重要だ。

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会員限定2026年07月20日 00時00分 公開

2026年07月20日 00時00分 更新

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