千客万来 百鬼夜行 第21回

2026年10月号 <千客万来 百鬼夜行>

多和田 元

コラム

第21回

「本能寺」から考えるカスハラ対策

 いまだにテレビが見られないので、大河ドラマで前半の見せ場となっていた「本能寺の変」を見逃してしまった。

 その本能寺の変で、クーデターを起こした明智光秀の動機には、織田信長から「宴席で酒を強要された」「発言をとがめられ、周囲の前で暴行された」「大事な仕事を任されながら突然解任」「口論の末、足蹴にされた」などの怨恨説がある。事実なら、とんでもないハラスメントである。

 そんな織田信長にも、「人の扱いには極めて率直」「ごく卑賎(ひせん)の家来とも親しく話をした」など、いい評判もある。新たな領民に対して、「信長の意見が間違っていれば、はばかることなく指摘すべき」と約束した記録もある。家臣を信じ、誓約書を交わすことも人質に取ることもしなかった。だから、何度も裏切られたという指摘もある。

 明智光秀は、戦死者として、武士より低い身分の者まで供養している。当時にはありえないことである。領民を愛し、善政を布き、領地だった地域では現在まで慕われている。また、織田家では唯一の「軍法」を定めている。現在でいえば「社内ガイドライン」を作ったようなものである。

 ところで、現代ではカスタマーハラスメント防止のための雇用管理上必要な措置が、2026年10月1日から、すべての企業等に義務付けられることになった。

 東京都が2026年3月に公表したカスタマーハラスメントに関する実態調査によれば、カスハラ防止対策に「取り組んでいる」と回答した企業の割合は38.5%。つまり、6割の企業が昨年度末まで未対策である。

 おそらく、企業は対策におおわらわだ。必要な措置を怠れば、指導や勧告を受ける可能性があるし、従業員から安全配慮義務違反を問われて損害賠償を請求される可能性もある。さらに、それが公になれば、企業イメージに影響する大きなリスクだ。

 同調査によると、「取り組んでいない」と回答した企業に、その理由を聞いたところ、「正当なクレームとの判断の難しさ」が29.6%と最も高く、「ノウハウ不足」が23.8%、「発生状況の把握が困難」が16.7%と続いた。

 企業としては、クレームに対して「適切な対応ライン」までは、オペレータに精一杯、努力させるのは当然だ。ただし、それ以上の事態になって、オペレータが心に深い傷を負ってしまうことは避けなくてはならない。そのギリギリのラインを超えてくるクレーマーがいたら、その瞬間から、オペレータを守るのは管理者の義務である。

 管理者にとってのカスタマーハラスメント対策とは、「適切な対応」のラインを設定し、そのラインを超える事態を「一刻も早く把握」し、対応を具体的に定めるものでなくてはならない。「判断が難しい」ことはわからなくはないが、「把握が困難」などと、悠長なことを言っていられるだろうか。

 明智光秀には、真偽は不明ながら「仏のうそを『方便』と言い、武士のうそは『武略』と言う。民のうそなど、可愛いものだ」と、領民を気遣った言葉が遺っている。管理者側の視点で作られるカスタマーハラスメント対策が、一般のオペレータを気遣ったものになるといいのだが。

PROFILE
多和田 元
Receptech代表。報道記者として取材・編集部門を経て、コンタクトセンター部門へ。オペレータ、SV業務と同時にシステムも担当。現場経験を生かした新しいシステムの構築や、カスタマーハラスメント対策などに長年取り組んでいる。

このコンテンツは会員限定です。
限定コンテンツを見るには無料会員登録が必要です。

お申込み

会員限定2026年09月20日 00時00分 公開

2026年09月20日 00時00分 更新

おすすめ記事

その他の新着記事

  • スーパーバナー(コムデザイン)

●コールセンター用語集(マネジメント編)

●コールセンター用語集(ITソリューション編)

記事検索 

購読のご案内

月刊コールセンタージャパン

定期購読お申込み バックナンバー購入