基礎編
第1回新連載
実店舗では、当たり前のように交わされる対話が、ECサイトではなぜ省かれ、「問い合わせを減らす」ことが重視されてしまう。果たしてそれで、顧客体験は高まるのだろうか。長年、化粧品販売の現場で対話の価値を体感し、ECサイトの立ち上げも担う筆者が、この違和感を出発点に、本寄稿でWeb接客を再考する。チャットを起点にWeb接客を検証。デジタル時代の“おもてなし”のあり方を探る。
私は長い間、化粧品の国内販売に携わってきました。
百貨店やブランドサイト、卸先の店舗、そしてWebサイト全般が私の担当領域です。大切にしてきたことは、ただ物を売るだけ、買っていただくだけではなく、コミュニケーションを通じて商品とお客様の間に「絆」を創ることでした。
営業職として、数え切れないほどの店舗を訪問し、美容部員さんたちと膝を突き合わせて売り場作りや接客方法について議論してきました。百貨店の売り場にも立ち、お客様と直接対話する機会もありました。そこで学んだのは、「売る」という行為は一方通行ではないということです。お客様の肌の悩みに耳を傾け、ライフスタイルを理解し、その方に最適な商品を提案する。この双方向のコミュニケーションこそが、販売の本質であり、おもてなしの原点だと信じています。
ところが、ECサイトの運営に携わるようになって、私は大きな違和感を覚えました。多くの企業が、Webサイトでの体験において「効率化」を最優先し、店舗では当たり前のように行われている「コミュニケーション」を避ける傾向にあったのです。言い換えれば、問い合わせを減らすことが善とされていました。
Webサイトで買い物をする際、送料やサイズ、商品の感触などを尋ねたくなった経験は誰にでもあるでしょう。
事業者側は商品ページを拡充し、FAQを整備し、チャットボットを設置して、お客様が自己解決できるようさまざまな工夫を凝らしています。
私の知人が運営する、あるECサイトでは、「サイト内コンテンツを充実させて問い合わせをゼロにする」ことが目標として掲げられていました。一見、理にかなっているようにも見えます。しかし、私自身がECサイトで買い物をするとき、答えを探すことに疲れてしまい、購入意欲を失うことがしばしばあります。Webサイトに携わっている私でさえもそうなのですから、一般のお客様であればなおさらではないでしょうか。
さらに、答えが見つからず、お客様が購入を諦めてしまうケースもあります。これは、お客様にとっても事業者にとっても悲しい結末です。双方がチャンスを逸しているのです。
実際の店舗での買い物を思い返してください。多くの場合、小さな疑問をスタッフとの会話でクリアにしてから購入しているはずです。「このスカート、丈はどのくらいですか」「このファンデーション、私の肌の色に合いますか」──そんな些細なやりとりが、購入の背中を押してくれます。
ですから私は、Webサイトでも同じように、小さな疑問をコミュニケーションで解決してあげたいと思うのです。それが、買い物を楽しんでいただくことにつながり、ひいてはお客様との絆を創ることになると信じています。
「Web接客」というワードは、Webサイト上で行うお客様対応全般を指すことが多いです。しかし、この連載においては、Webサイト上で行う「チャット」での対応をWeb接客と定義づけさせてください。
なぜチャットに限るのか。それは、Web接客のコアを「コミュニケーション」にしてほしいからです。電話、メール、チャットの中で、現時点ではチャットが最もコミュニケーションを築くのに適していると考えています。
電話はリアルタイムで声のトーンも伝わりますが、お客様にとっては心理的なハードルが高く、担当者も複数人を同時に対応できないという限界があります。メールは非同期でていねいな対応ができますが、やり取りに時間がかかり、お客様の購買意欲がさめてしまうリスクがあります。一方、チャットはリアルタイム性と気軽さを兼ね備えています。複数のお客様にも同時に対応でき、テキストベースでありながらも会話にテンポ感があります。絵文字やスタンプを使えば、感情表現も可能です。そして何より、チャットの履歴は貴重なVOC(顧客の声)として蓄積され、商品開発やサービス改善に生かすことができます。
この連載では、私がアルビオンで実際に経験したECサイトを立ち上げる際の試行錯誤や失敗と成功、そして現在進行形で取り組んでいるAI活用まで、包み隠さずお伝えします。営業畑出身の私が、どのようにしてデジタルの世界で「おもてなし」を実現しようとしているのか。その道のりを共有することで、読者の皆様のWeb接客に対する意識が少しでもポジティブになれば幸いです。

Web接客では、「問い合わせをゼロにする」ことが目標なのではありません。「お客様との対話を通じて、喜んでいただき、信頼していただき、ファンになっていただく」ことが私たちの目指すべきゴールです。
次回は、Web接客担当者になったら最初に知っておくべき心構えと、私が直面した壁についてお伝えします。
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2026年05月20日 00時00分 更新
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