わたちゃんのかすたま~えくすぺりえんす 第135回

2026年5月号 <わたちゃんのかすたま〜えくすぺりえんす>

渡部弘毅

コラム

第135回

「ピーク・エンドの法則」で、
終わり良ければすべて良し!?

 先日、久々の夫婦旅行で散々な目に遭った、わたちゃんです。道中は大雨と40kmの猛烈な渋滞。ようやく着いた宿の露天風呂はまさかの改装中で、「家で寝ていればよかった」と毒づく始末でした。ところが帰り道、空が晴れて富士山が顔を出し、サービスエリアで食べたアイスが絶品だった途端、カミさんが「最高の旅だったね!」と上機嫌で言い出したのです。道中の苦労はどこへやら。女心と秋の空とはこのことです。

 「ピーク・エンドの法則」とは、ある経験を振り返るとき、その時間の長さや全体を通した平均的な感情ではなく、「最も感情が動いた瞬間(ピーク)」と「その経験が終わった瞬間(エンド)」の印象だけで、その出来事の全体像を評価してしまうという法則です。

 多くの企業は、顧客との接点すべてで「100点満点」を目指そうと必死になります。しかし、リソースには限りがあります。最初から最後まで完璧を目指してスタッフが疲弊した結果、一番大事な「去り際」でボロが出てしまう、というのはよくある失敗パターンです。

 この法則に基づくと、顧客満足度を高める秘訣は、「すべてのタッチポイントを等しく改善しないこと」にあります。むしろ、途中の小さな不備や待ち時間は「多少あっても構わない」と割り切り、リソースを「最高の感動体験(ピーク)」と「去り際の満足感(エンド)」に一点集中させるのです。不完全な部分があるからこそ、ピーク時の感動が際立ち、終わりが良ければ「あの苦労も、この瞬間のためのスパイスだった」と記憶が書き換えられます。単なる事実の積み上げではなく、「美しい記憶をデザインすること」が重要です。

 例えば、ある高級レストランでは、食事の内容が素晴らしいのはもちろんですが、本当の勝負は「会計後」にあります。出口でシェフが自ら見送り、翌朝の朝食用の焼き立てパンを小さな手土産として渡す。あるいは、テーマパークで丸一日行列に並んで疲労困憊していても、最後に豪華なパレードや花火を見せることで、「今日は最高だったね」という会話を引き出す。これらはまさに、エンド(最後)にポジティブな感情のピークを持ってくることで、道中の「待ち時間の長さ」や「足の痛み」というマイナスの記憶を上書きする高度な戦略です。顧客ロイヤルティを勝ち取るのは、常に「締めくくり」が鮮やかなブランドなのです。

 ということで、ビジネスも旅行も、そして夫婦生活も「終わり良ければすべて良し」。最近は、熟年夫婦として人生のエンドが近づくにつれ、せっせとカミさんに優しくしたり、美味しいスイーツを献上したりしています。こうして最後に得点を稼いでおけば、若い頃にやらかした数々の悪行や失言に対しても、「あの日の辛かったことは一生忘れないわ!」なんて恨み節を言わずに、笑って許してくれる日が来るのかな、なんて淡い期待を抱いている今日この頃です。

図 感動を「お土産」にする顧客体験設計例
図 感動を「お土産」にする顧客体験設計例
PROFILE
ISラボ 代表
渡部弘毅
職業:顧客経験価値にこだわる戦略立案&業務改革コンサルタント
過去勤めたことのある企業:日本ユニシス、日本IBM、日本テレネット
著書『ファンをつくる顧客体験の科学 「顧客ロイヤルティ」丸わかり読本』(2023年11月、リックテレコム刊)
週末の過ごし方:
<ケース1>隅田川あたりをぶらぶら散歩して浅草で飲んだくれたあと銭湯で汗を流す
<ケース2>スポーツジムでヨガレッスンを受けて汗を流す

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会員限定2026年04月20日 00時00分 公開

2026年04月20日 00時00分 更新

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