コラム
第135回
先日、久々の夫婦旅行で散々な目に遭った、わたちゃんです。道中は大雨と40kmの猛烈な渋滞。ようやく着いた宿の露天風呂はまさかの改装中で、「家で寝ていればよかった」と毒づく始末でした。ところが帰り道、空が晴れて富士山が顔を出し、サービスエリアで食べたアイスが絶品だった途端、カミさんが「最高の旅だったね!」と上機嫌で言い出したのです。道中の苦労はどこへやら。女心と秋の空とはこのことです。
「ピーク・エンドの法則」とは、ある経験を振り返るとき、その時間の長さや全体を通した平均的な感情ではなく、「最も感情が動いた瞬間(ピーク)」と「その経験が終わった瞬間(エンド)」の印象だけで、その出来事の全体像を評価してしまうという法則です。
多くの企業は、顧客との接点すべてで「100点満点」を目指そうと必死になります。しかし、リソースには限りがあります。最初から最後まで完璧を目指してスタッフが疲弊した結果、一番大事な「去り際」でボロが出てしまう、というのはよくある失敗パターンです。
この法則に基づくと、顧客満足度を高める秘訣は、「すべてのタッチポイントを等しく改善しないこと」にあります。むしろ、途中の小さな不備や待ち時間は「多少あっても構わない」と割り切り、リソースを「最高の感動体験(ピーク)」と「去り際の満足感(エンド)」に一点集中させるのです。不完全な部分があるからこそ、ピーク時の感動が際立ち、終わりが良ければ「あの苦労も、この瞬間のためのスパイスだった」と記憶が書き換えられます。単なる事実の積み上げではなく、「美しい記憶をデザインすること」が重要です。
例えば、ある高級レストランでは、食事の内容が素晴らしいのはもちろんですが、本当の勝負は「会計後」にあります。出口でシェフが自ら見送り、翌朝の朝食用の焼き立てパンを小さな手土産として渡す。あるいは、テーマパークで丸一日行列に並んで疲労困憊していても、最後に豪華なパレードや花火を見せることで、「今日は最高だったね」という会話を引き出す。これらはまさに、エンド(最後)にポジティブな感情のピークを持ってくることで、道中の「待ち時間の長さ」や「足の痛み」というマイナスの記憶を上書きする高度な戦略です。顧客ロイヤルティを勝ち取るのは、常に「締めくくり」が鮮やかなブランドなのです。
ということで、ビジネスも旅行も、そして夫婦生活も「終わり良ければすべて良し」。最近は、熟年夫婦として人生のエンドが近づくにつれ、せっせとカミさんに優しくしたり、美味しいスイーツを献上したりしています。こうして最後に得点を稼いでおけば、若い頃にやらかした数々の悪行や失言に対しても、「あの日の辛かったことは一生忘れないわ!」なんて恨み節を言わずに、笑って許してくれる日が来るのかな、なんて淡い期待を抱いている今日この頃です。
