ガートナージャパン 亦賀 忠明 氏

2026年1月号 <インタビュー>

亦賀 忠明 氏

ガートナージャパン
ディスティングイッシュト
バイス プレジデント アナリスト
亦賀 忠明

(Tadaaki Mataga)米国でのソフトウェア開発を含む10年以上のエンジニア経験を経て、Gartnerに入社。以降、インフラ、クラウド、先進テクノロジを中心に担当。ここ数年は、AI、産業革命、マインドセットといった領域に注力し、ユーザー企業のCEOやCIOはもとより、主要なベンダー、インテグレーターのエグゼクティブに対し、様々な戦略的アドバイスを行っている。

落とし穴はAIエージェントへの「過度な期待」「過小評価」
人材投資とCXの“総点検”で「幻減期」に備えよ

生成AIの導入が「待ったなし」で進み、AIエージェントというキーワードが席巻した2025年。一方、現場には戸惑いも広がっている。何を見極め、どこから手を付けるべきか。AIトレンドの動向に精通するガートナージャパンのディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストの亦賀忠明氏に話を聞いた。

──第4次AIブームと言われています。現在のAIトレンドを教えてください。

亦賀 2024年は生成AI活用においてRAG(検索拡張生成)が一気に広がり、2025年はAIエージェントやエージェント型AIが国内外を席巻しました。その結果、トップダウンで「AIエージェントを活用せよ」と指示された現場から「何から手を付ければいいのかわからない」といった声が上がってきています。このあたりの現状は、2025年8月にリリースした「日本におけるクラウドとAIのハイプ・サイクル:2025年」でも触れています。

──ハイプ・サイクルも「過度な期待」のピーク期にAIエージェント、黎明期にエージェント型AIの2つが存在します。違いは。

亦賀 現在、混同されて使われていますが、Gartnerでは分けて捉えるべきと考えています。AIエージェントはある程度気を利かせながらシンプルなタスクを実行する仕組みです。ただし、導入したら、即時に気の利いた仕組みが使えるようになるわけではありません。結局、ビジネスで使えるようにするためには、企業が自分たちにあったエージェントを作る必要があり、コストも手間もかかります。一方、エージェント型AIは、より高度なタスクを人がそれほどの手間をかけずに実行できるようになることが期待される新しい概念です。

──エージェント型AIは、現在のAIエージェントを超えた理想を具現化した“進化版”と言えますね。

亦賀 ただ、2025年末時点では、引き続き概念先行であり黎明期です。このことはインターネットの進化と同様で、急に完成されたすごいものが登場するわけではありません。大規模言語モデルにはマルチモーダルのような飛躍的な進化が見られますが、それでもビジネスで求められるタスクの自動実行の実現には至っていません。一方、複数のAIエージェントがタスクを分担するマルチエージェントや、AIと外部システムをつなぐ窓口となるMCP(Model Context Protocol)サーバーといった仕掛けで共通の手足を付けられるようになったことや、ワールドモデルによる物理的因果推論の実装はこの1年での大きな前進と言えます。

「ウォッシング」に注意!
求められる目利き力

──現在の第4次AIブームも、「お祭り」と揶揄された第3次AIブームと同様の印象を受けます。

亦賀 10年前の第3次AIブームを振り返ると、AIという実体がないのにAIと呼んでいたケースが散見されました。導入の裏側ではExcelと人海戦術でQ&Aを作っていたプロジェクトもあり、現場の「被害者」は相当多かったと言わざるを得ません。今回の生成AIやAIエージェントも、期待と実態にはギャップがあり、同様の「お祭り」になっている側面もあります。ITベンダー側をみると「とりあえずAIエージェントと言っておこう」と、技術的要件を満たしていない“エージェント・ウォッシング”も各所で見られます。

──企業が気を付けるべきポイントはありますか。

亦賀 AIエージェントの具体的なテクノロジを吟味できるようにすることが重要です。そのためには、ベンダーが提供し始めているAIエージェント関連テクノロジのリアルを知る、すなわち自らの「テクノロジの目利き力」を鍛える必要があります。経営者は「波に乗り遅れるとまずい」と焦って導入を進めようとしないことや、現場でハルシネーションがあり完璧でないから「使えない」と一蹴して過小評価をしないこともポイントです。

AI戦略は人材戦略と捉える!
適材適所を見極め「投資」しよう

──次に、AIによるDX(デジタルトランスフォーメーション)の現状課題について教えてください。

亦賀 DXとは本来、テクノロジによるビジネス・トランスフォーメーションであるはずなのですが、多くの企業では、「業務のIT化」や「ITをただ活用できるようにすること」止まりになっています。その理由の1つが「業務中心主義」です。このようなマインドセットを持つ企業では、ほとんどのケースで「そのテクノロジは業務に使えるのか」といった議論になり、そこでは「業務を変えないこと」が前提となります。これを井戸に例えると、井戸を変えないで、滑車にモーターを付けて水汲みを自動化することと同じです。しかし、DXとは「井戸を水道にする」ことです。AIは、水道のように企業のベースラインとなり、ビジネスの前提となる必要があります。

──AIを前提とした企業の再定義が必要ですね。

亦賀 日本のテクノロジ導入論のほとんどにおいてこうした「井戸」議論が続いていますが、何回議論を繰り返しても、新しい時代(New World)にはならない。このことを経営者も含めすべての関係者は強く認識する必要があります。そのうえで、早急に企業体を総点検し、アップデートを図る必要があります。具体的には「チーフ産業革命オフィサー」のような役割を設け、社長や他の経営陣と協調しながら「業務そのものの抜本的なトランスフォーメーション」のオーナーシップを持つ人が必要です。人事施策の観点では「人材育成」から「人材投資」への転換が求められます。AIとの共生時代においては、より人間力を強化する必要があります。そのためには、CQ(好奇心指数)が高い人に優先的に投資することがよいと考えます。AI戦略は人材戦略であると捉え、大胆に進めるべきです。これらの実行には相応の覚悟が必要ですが、決断を先送りした企業は、今後かなり厳しい現実が突きつけられるでしょう。

AIエージェントの導入で高まる
人の役割と有人対応の価値

──コールセンターでは、AIエージェントへの期待が高まる一方、「勝手に動かれては困る」という不安の声もあります。

亦賀 「言われたことを忠実に遂行すればよい」という、人間を機械のように扱うオペレーションをしているところでは、そうした考えが生まれ易いと考えています。今後、コールセンター業務の多くがAIに置き換えられますが、それは人を減らすためではなく、人を「AIより気の利くVIPサービスの提供者」にシフトさせるきっかけとなります。AIエージェントは裏側で事務処理や照会などを柔軟に実行し、人は“人間ならではの価値”が求められる対応に集中する。AIは、人間らしさで差別化するためのレバレッジとして使う。それが、これからのコールセンターにおけるAIとの向き合い方の基本スタンスになるでしょう。

──顧客体験の総点検も必要になりそうですね。

亦賀 サービスレベルやユーザビリティの設計思想が弱い状態でAIエージェントを導入しようとすると、現在の人間の業務にAIを合わせようとしすぎて、本来改善した方がよい顧客体験をAIエージェントでも継続する可能性が高いです。2026年は、AIエージェントに関する実装能力が試される年になります。AIエージェントが「過度な期待」のピーク期にある今こそ、これから来る幻滅期に備えて総点検を行うタイミングです。幻滅期とは、「これからが本番」という時期と言えます。競争力を高めたい企業は、顧客の満足度向上に加えて、従業員を「大事に元気に活躍できる」People Centricな状態にすることが強く推奨されます。そうした企業では、People CentricがAIエージェントを力強く推進する原動力となります。

(聞き手・横田 麻生子)

イメージ写真
Gartnerの概要
設立:1979年
代表者CEO:Eugene A. Hall氏
本社所在地:56 Top Gallant Road Stamford, CT 06902-7700 U.S.A.
東京本社所在地:東京都港区愛宕2-5-1、愛宕グリーンヒルズMORIタワー 5階
事業内容:世界中の顧客企業の重要な課題において、より優れた意思決定と大きな成果を創出し、実行可能かつ客観的なビジネスおよびテクノロジのインサイトを提供

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会員限定2025年12月20日 00時00分 公開

2025年12月20日 00時00分 更新

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