ソリューション
非エンジニア「AI専任チーム」と現場がタッグ
Sansanが挑む“テクサポ”の自動化
名刺管理ツールの最大手、Sansan。ユーザー数の増加に伴う有人対応によるサポートの繁忙が課題だったが、従来のチャットボットに変わり、AI汎用開発ツールを利用した「お手製」チャットボットを開発し、効率化に成功した。なかなか実現できない「ボットによるコンタクト削減」を成功させたポイントを検証する。
この20年間、さまざまなビジネスプロセスがデジタル化で大きく変化してきたが、なかでも、ビジネスマンにとって最も“身近な変化”が「名刺管理」といえる。
かつて、デスクの引き出しで多くのスペースを占めていた名刺はデジタル化され、スマートフォンの中に収まっている。しかも同じ部門内で共有されるなど、その価値は紙で管理していた頃よりもはるかに高い。このトレンドを作った先駆けであり、現在もトップシェアを占めているのがSansanだ。
同社では、名刺の読み取りやデータベース化の過程でAIを活用しているのは言うまでもないが、「業務のすべてをAIを軸に考える方針が打ち出され、すでに社員の99%が何らかの業務で生成AIを活用しています」(Sansan事業部 テクニカルサポート部 部長の長島千朋氏)という。
特徴的なのは、非エンジニアメンバーで立ち上げた、AIを用いて社内の業務プロセスに向き合うチームという「AIX室」の発足だ。

AIフル活用の方針は、テクニカルサポート部も、もちろん例外ではない。顧客対応において、その取り組みの軸となったのがチャットボットの構築だ。
長島氏は、「ユーザー数の増加に伴い、問い合わせ件数も増えてきましたが、人員を増やして対応するしか手段がなかった」とかつての課題を振り返る。そこで、着手したのがAIを活用したチャットボットだ。
もともと、同社では顧客向けにチャットボットを運用していた。しかし、活用していた2つのソリューションは(1)大量のアノテーション(注釈)が必要、(2)アノテーションが付加されたQ&Aデータ以外は回答できない、(3)情報源がヘルプサイトのみに限定、(4)回答文に文字数制限──などの課題があり、「単純な質問にしか回答できず、回答率は10%台でした」(Sansan事業部 テクニカルサポート部 シニアマネジャーの野口ゆふ氏)という状況だった。
そこでツールの選定から見直しを開始。AIX室と連携し、生成AIアプリ開発ツール「Dify」を活用、開発した。「情報源はヘルプサイトに加えて『Sansan Innovation Navi』という活用サイト、そして過去の問い合わせ対応履歴(チケット)までカバーできています。また、例えば単語の質問に対しても『こういうことをお聞きですか?』のような聞き返しができた結果、有人対応件数が数百件単位で減る(前年比)といった効果が出ています」(野口氏)という。
回答精度の向上に最も貢献したのは、過去の問い合わせ履歴だ。その数、約5000件。野口氏は、「最も苦労したのは、個人情報の削除でした。まずはAIに削除指示をしたのですが、そのうえで目視でもチェックして万全を期しています」と説明する。その苦労の甲斐あって、顧客のエフォートレス体験向上に加え、若干の人件費削減にも貢献している。
そして、成功に至るもう1つのポイントが、継続的な改善サイクルを回したことだ。「最初に開発したバージョン1は、正答率も20%程度しかありませんでした。100件チェックして、結果をもとにチューニングする──を5回短期間で繰り返した結果、正答率は94%まで向上しています」(長島氏)。
テクニカルサポート部において、生成AIは対顧客だけでなく、社内業務においても積極活用されている。Sansan事業部 テクニカルサポート部 マネジャーの尾崎拓真氏は、「問い合わせ対応の業務割合が高すぎたのが課題でした。非エンジニアでもAIさえ上手く使えれば効率的に業務改善できるのでは、と考えてGoogle Apps Script(GAS)を活用するなど、AIを使って時間を作るアプローチをはじめたのです」と説明する。
その改善の一例を図に示す。Sansanでは、ユーザーに対して名刺をスキャンするハードウエアを貸し出しているが、その交換対応が月平均800件、そして1件あたり20分の作業を要していた。それをGASを活用して完全自動化。専用フォームへの入力と顧客への送付連絡を自動化した結果、精度もスピードも向上し約1.5人月の工数を削減している。

カスタマーサポートの未来について、尾崎氏は「AIにはAIの、人には人の強みあります。AIはサポートの従事者にとって脅威ではなく、最高のパートナーとして捉えるべきで、AIチャットで顧客対応を自動化する一方、その精度を保証するためのアップデートや、AIだけで解決できない案件を人が担うといった役割の整理が必要」と展望した。
(矢島 竜児)
会員限定2025年10月20日 00時00分 公開
2025年10月20日 00時00分 更新