コールセンター現場力向上の鍵 即実践できる採用・定着マネジメントの考え方 第6回

2025年12月号 <コールセンター現場力向上の鍵 即実践できる採用・定着マネジメントの考え方>

栗栖俊輔

実践編

第6回最終回

職務・従業員特性でどう変わる?
事例に学ぶ採用・育成の「設計」と「運用」

多忙を極めるコールセンターにおいて、新規採用したメンバーを定着させ、成長を促すためにはどのような取り組みが重要なのだろうか。最終回では、タイに拠点を置き、日本企業向けにコールセンターサービスを中心としたBPO事業を展開するBPO Bangkok社の事例を詳述しながら、2つのポイントを紹介する。組織力の底上げには、職務・従業員特性を踏まえた設計・運用が重要だ。

PROFILE
リンクアンドモチベーション
EMカンパニー カンパニー長
栗栖俊輔
一貫して採用領域のコンサルティング・アウトソーシングに従事。近年は採用および入社後の定着・活躍支援を行うオンボーディング事業の責任者を経て、2024年より、採用コンサルティング事業の責任者に就任。

 「目の前の顧客応対で手いっぱいで、メンバーの育成に割ける時間なんてほとんど残っていない」

 「1on1をやってはいるが、現状業務の話題に終始し本人の将来やキャリアの話に踏み込めない」

 メンバーの育成や定着に関する課題は、コールセンターの管理職から多く聞かれる。

 このような声が発生する背景には、コールセンター特有の「職務特性」と「従業員特性」がある。

 まず、職務特性として、日々の応対件数や平均処理時間などの数値を管理しながら、突発的なクレームが発生した際には即時対応が求められる。そのため、時間的にも精神的にも余裕が奪われやすく、結果的に、思うようにメンバーの育成に時間を充てられなくなってしまう。

 また、従業員特性として、勤務時間や働き方に柔軟性を求めるメンバーが多く集まる傾向がある。とくに、短期契約の学生やフリーター、他社と兼業しているパート・アルバイトは、1日の勤務時間が短かったり、日によってバラつきが見られる。そうした状況では、限られた人員で通常業務を回すことへの優先度が高くなり、必然的にメンバーの育成や今後のキャリアに関する対話の時間が少なくなってしまう。結果、1on1を実施しても、業務に関する話題がメインとなり、本人の成長やキャリア形成まで踏み込めないことが多い。

 こうした状況下だからこそ、組織全体として、採用から定着までを一貫して支える仕組みの「設計」と、各取り組みの効果を高める「運用」が重要だ()。

図 設計と運用
図 設計と運用

①設計
 設計のポイントは、「全体像を踏まえ、採用から定着までのつながりを感じられるようにすること」だ。

 例えば、採用時に「育成体制が整い、早期に活躍できる」と伝えていたとして、実際に入社すると他の社員が多忙で育成を後回しにされた場合、新人は「聞いていたことと違う」と失望し、早期離職を検討する。これを防ぐには、日々の振り返りの仕組み化や、困った時にすぐに上司や他のメンバーに相談できる環境の整備が重要である。

②運用
 運用のポイントは、「メンバーと期待や認識を擦り合わせ続けること」だ。

 例えば、コールセンターの経験がないメンバーは、不安な箇所や懸念点が発生しやすい。だからこそ、入社前から面接やカジュアル面談の機会を通じて、キャリアや働く価値観について対話を重ねることが重要である。また、入社後も先輩社員との1on1や上司との評価面談などで、スキルの棚卸しや今後のキャリアについて擦り合わせを行う。結果、メンバーの不安な箇所の解消だけでなく、今後懸念点が発生した時に検知できる可能性が高まる。

オフィスツアー、バディ制度
1年以内の離職者38%減

 こうした「設計」と「運用」に取り組み、成果につなげている事例として、BPO Bangkok社の取り組みを紹介する。

 同社の求人応募者の多くは、海外での生活や多様な文化を体験しながら働くことに魅力を感じており、職場環境や労働条件に対する注目度も高い。そのため、「いかに安心して働き続けられるか」「入社後の不安やギャップをどう減らすか」を重要なテーマにおいている。

 採用では、面接の前にオンラインでオフィスツアーを実施し、現地オフィスの雰囲気や働く環境を共有。また、オフィス紹介だけではなく、業務内容も説明し、応募者の不安や疑問にもその場でていねいに回答し、認識を擦り合わせている。この取り組みによって、候補者の志望度を高めると同時に、入社後のミスマッチを防いでいる。

 育成では、配属先の業務に応じて、チームごとにオンボーディングプログラムを設計している。加えて、1人のメンバーに対して1人のバディ(先輩社員)をつけ、試用期間中は隣の席で業務を行いながら、不明点があればすぐに確認。一日の業務が終わると、バディとの振り返りの時間を設け、業務面の不安解消だけでなく、生活面も含めて寄り添えるような体制にしている。

 定着に向けては、評価面談の内容を工夫している点が特徴的だ。定量的な結果の確認や課題の提示だけではなく、上司から見えている本人の強みや、会社として今後に求める成長の方向性をセットで伝え、擦り合わせている。評価の機会を「査定」だけではなく「成長機会」として工夫している点がポイントだといえる。

 これらの取り組みによって、従前課題となっていた入社後1年未満の離職者数は昨年比で38%減少するなど、大幅な改善を実現している。

 コールセンターは多様な人材が集う職場だ。その1人ひとりの「視界の個別性」を理解しながら、採用・育成・定着を一貫して設計し、ていねいに運用していくことが、組織力の底上げにつながる。本連載が、日々現場を支えるみなさまにとって、小さな実践のヒントとなれば幸いである。

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会員限定2025年11月20日 00時00分 公開

2025年11月20日 00時00分 更新

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