わたちゃんのかすたま~えくすぺりえんす 第123回

2025年5月号 <わたちゃんのかすたま〜えくすぺりえんす>

渡部弘毅

コラム

第123回

「カニバリゼーション」と企業のジレンマ

 昔は「粉末に代わる液体洗剤」として売り出したくせに、最近は「液体洗剤は、ほぼ水!!」と公言するメーカーは無責任だと思う、わたちゃんです。どのビールも「旨い!!」と宣伝しているメーカーにも、「本当はどれが一番旨いの?」と問い詰めたくなります。

 企業が新商品を開発する際、必ずついて回るのが「カニバリゼーション(自己競合)」の問題です。これは自社の新商品が既存商品と競合し、売り上げを食い合う現象のこと。新商品が市場を拡大するのではなく、従来の顧客を奪ってしまうことで、結果的にトータルの利益が増えない、または減少するリスクが生じます。

 例えば、ある飲料メーカーが「糖質オフ」のビールを発売すると、ヘルシー志向の消費者を取り込みつつ、従来のビールの売り上げが下がる可能性があります。競合他社の顧客を奪うのなら問題ありませんが、自社の売り上げを奪ってしまうと、「せっかく開発したのに利益が変わらない」という事態になりかねません。

 また、スマートフォン業界もカニバリゼーションが顕著な業界のひとつです。消費者としては、新しいモデルが次々と登場することで、「今買うべきなのか、もう少し待つべきなのか」と迷うことも多く、結局購入を見送るケースもあります。新モデルを発売するたびに、既存のユーザーが最新機種に乗り換えることで、旧モデルの売り上げが減少します。これにより、各メーカーは「どのタイミングで新モデルを発表するか」「旧モデルをどう処理するか」に頭を悩ませています。

 さらに、カニバリゼーションには意図的に仕掛けるケースもあります。消費者側からすると「同じ会社なのにどっちを選べばいいの?」と混乱することもあり、ブランドごとの違いや価値が見えにくくなることがあります。例えば、ファストフード業界では、同じ企業が異なるブランドを展開し、それぞれ異なるターゲット層に向けて商品を提供することで、競合を避けながら市場を支配しようとします。企業がカニバリゼーションをうまく活用するには、市場全体の成長を促すか、新たな価値を創造することが重要です。例えば電動歯ブラシが一般的になったことで、従来の歯ブラシの市場は縮小しましたが、歯の健康への意識が高まり、オーラルケア市場全体は拡大しました。また、植物由来の代替肉の登場により伝統的な精肉市場は影響を受けましたが、新たな健康志向の消費者を獲得し、食品業界全体の選択肢が広がりました。このように新商品が新市場を開拓すれば、企業としても成功といえるでしょう。

 ということで、新商品は消費者に有益な点も多いですが、あまりメーカーの宣伝に躍らされず、市場の動きを見極め、情報を正しく判断する力を高めていこうと思います。まずは、ビールの味の違いが分かるよう、いろんな種類をじっくりと味わいつつ学ぶことかなあ。

図 カニバリゼーションの例
図 カニバリゼーションの例
PROFILE
ISラボ 代表
渡部弘毅
職業:顧客経験価値にこだわる戦略立案&業務改革コンサルタント
過去勤めたことのある企業:日本ユニシス、日本IBM、日本テレネット
著書『ファンをつくる顧客体験の科学 「顧客ロイヤルティ」丸わかり読本』(2023年11月、リックテレコム刊)
週末の過ごし方:
<ケース1>隅田川あたりをぶらぶら散歩して浅草で飲んだくれたあと銭湯で汗を流す
<ケース2>スポーツジムでヨガレッスンを受けて汗を流す

2025年04月20日 00時00分 公開

2025年04月20日 00時00分 更新

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