戦略編
第2回
コンタクトセンターは、顧客の目的に沿って全体最適にデザインされるべきだ。Web、チャット、電話など、あらゆるチャネルを1カ所に集約<水平統合>し、プロセス全体をシームレスに流す<垂直統合>必要がある。生成AI、音声認識などの先端テクノロジーは、全体設計のパーツと捉える。全体最適に設計されたサービスの構築を可能にするのがシステムプラットフォームだ。サービス全体の状況をデータで可視化し、高速・継続的なブラッシュアップにも役立つ。
前回は、CXテクノロジーの進化と、それに後押しされる形での顧客行動の変化について解説した。
サービスはセルフ化(あるいはオープン化)と高付加価値化の両方が進行し、同じ顧客であっても用途やシーンによってそれらを使い分ける行動が加速すると予想する。加えて、セルフ化と高付加価値化の二択ではなく、融合であることが昨今の動向の特徴である。
セルフサービスチャネルでもAIによる対話的やりとりが行われたり、セルフサービスチャネルから有人チャネルにシームレスな誘導・引継ぎがなされたりするなど、CXはさらなる進化を遂げている。
進化するCXとは具体的にどのような姿なのか。「エアコンの不具合の解消」という身近でわかりやすいケースを例に、カスタマージャーニーを追ってみよう(図1)。
エアコンから水漏れが起きているという不具合が出たとしよう。
顧客がメーカーに電話を架けると、まずはボイスボットが受け付けをする。顧客の中には説明をまとめるのが苦手な人もいる。顧客が起きているエアコンの不具合や自分の感想をとりとめなく話す姿を想像できるだろうか。そのとりとめない話をまとめ、何を解決したいのかをAIが要約・整理する。「エアコンが水漏れをしているということですね。異常な挙動や音はありましたか?」「それはいつごろからですか?」という具合に、話の整理と2次、3次的な問いかけをすることで、適切な次のアクションを導き出すのである。
反対に言葉が少ないタイプの顧客もいる。「エアコンの調子が悪いです」という具合に、説明が簡素すぎて情報量が少なく、どこがどう悪いのかがわからない。このような場合には、AIが質問を投げかけて必要な情報を1つ1つ確認していくことで、情報を肉付けし事象・原因を把握するのである。音声認識技術と生成AIの向上により、ボイスボットは人間さながらの自然なやりとりを提供する。
その結果、部品交換が必要ということがわかった。顧客には自宅訪問・修理の候補日時がアプリやWebのマイページを通じて提示され、その中から都合の良い日時を選択するだけで修理日が確定する。
修理が終われば、確認書へのサインや代金の支払いまで、顧客はアプリやWebのマイページでスムーズに完結できる。
顧客に快適なCXを提供する裏側はどうなっているのか。次はメーカー側のジャーニーを見てみよう。
メーカーのサービス部隊は顧客から聞き取った不具合の内容から、分析・診断と対処法の検討を行う。ボイスボットが受け付けた顧客からの相談は、自動でシステムにケース登録される。聞き取った内容を単純に登録するのではなく、情報を要約・構造化して記録することはもちろん、診断結果と対処策案をAIが導き出すのである。このことはメーカー担当者の診断精度担保と手間の削減につながる。
ここで大事なのは、「Human-in-the-loop」という考え方である。AIによりすべてを自動完結するのではなく、あくまでAIがヒトをサポートするという考え方で、AIを使った効率的なプロセスの中にヒトが介在する。AIの診断をヒトが最終チェック・判断することができ、ヒトに蓄積されたナレッジを落とし込むことで、AIの学習を加速させることもできる。
次のステップは、訪問修理業者の選定と日時調整である。メーカーは、提携関係にある複数の修理業者の中から適切な業者を選び、対応を依頼する。各業者が対応可能な修理内容・地域、部品在庫などの複数の条件から最適な候補業者と訪問可能日時をシステムが選び、瞬時に提案する。修理業者への依頼や顧客との訪問日時調整はポータル上でスムーズに完結する。
この調整は通常、メーカーの担当者にとっては大変に骨の折れる作業である。各業者が対応可能な修理内容や地域、稼働状況、部品在庫など、多岐にわたる条件をもとに手作業で候補業者を絞り込み、メールや電話で顧客と業者の間に入って調整のやりとりを行う。業者と顧客の都合が合わない場合などは、重ねて調整のやりとりが発生する。これは顧客にとっても、訪問日時確定までの待ち時間の長さや手間の多さにつながる。
テクノロジーは顧客に快適なCXを提供し、メーカーには劇的な効率化をもたらす。その半面、導入の難易度は決して低くない。
先端テクノロジーを活用し、各ポイントで高度なサービスを提供したとしても、それがぶつ切りで分断されていては、顧客は快適さどころか本来の目的である問題解決にたどり着くことすら難しくなる。生成AI、音声認識、機器監視などの先端テクノロジーは、サービスに進化をもたらすポテンシャルがあるが、高度なゆえに技術調査や導入検討は専門化・細分化することで、全体が見えづらくなるという矛盾を内包している。これが先端テクノロジーの導入が暗礁に乗り上げる、あるいは期待効果を出せない主要因である。これを解消するためには、次の2つの視点が重要になる。
1つ目の視点は「水平統合」である。FAQ、ボイスボット、チャット、電話……、あらゆるチャネルを1カ所のポータルに集約する。また、顧客が正しいチャネルを選択できるよう促し、やりとりの流れ次第でボイスボットからオペレータなど適切なタイミングで別のチャネルに誘導する。さらに、前のチャネルでのやりとりの情報を引継ぐことで、たらい回しによる再説明の負担を解消する。このチャネルの集約と有機的な連携を「チャネルの水平統合」と呼ぶ。
2つ目の視点は「垂直統合」である。問題発生からの情報収集、ファーストコンタクト、問題解決後の結果の確認から支払い手続きまで、顧客の行動には一連のプロセスがある。このプロセスが途切れずにEnd to endで一気通貫していることで、顧客の快適さや企業側の効率が高まる。これを「プロセスの垂直統合」と呼ぶ。
このように水平・垂直に統合されたサービスを提供するには、サービス全体を“塊”としてデザインし、そこに個々のテクノロジーを組み込むという発想が必要になる(図2)。
サービスは、顧客の目的に沿って水平・垂直に統合され、全体最適化されていなくてはならない。繰り返しになるが、先端テクノロジーの単発導入は、顧客や現場のオペレーションをかえって混乱させてしまうリスクがある。
このような統合されたサービスは、多岐にわたる顧客接点・シナリオを持つ。そのため、前述のとおり構想・構築の難易度も高いが、マネジメント・改善の難易度も高い。どの顧客接点あるいはプロセスに問題があり、改善点はどこかを特定するのは、非常に骨の折れる作業である。
改善点の特定に役立つのはさまざまな顧客接点・プロセスを1つにまとめ、さらには先端テクノロジーを搭載させることができる、システムプラットフォームである。統合的に設計されたサービス全体をプラットフォームに集約することができれば、全体の中でどのような兆候や問題があるかを容易に把握することができ、改善策を検討しやすくなる。
例えば、クラウド型コンタクトセンターソリューション(Contact Center as a Service:CCaaS)は、電話、チャットボットなどのさまざまな種類の顧客接点に加えて、それを支える音声認識・テキスト化、顧客満足度分析、マルチチャネル分析などの機能を搭載しており、快適なCXを提供するとともに1つのプラットフォームとして全体のデータを把握できる。つまり、チャネルの水平統合をサポートする。
また、ワークフロー(手続き)プラットフォームは入口(問い合わせ)から出口(問題解決・支払い手続き)まで、すべてのプロセスのデータを1つのシステムに集約することができる。さらには、これらのプラットフォームは他のシステムとの連携性が高いため、先端的なテクノロジーをプラットフォーム上に搭載して稼働させることもできるのである。つまり、プロセスの垂直統合を実現する。
加えて、この2つのプラットフォームを連携させることにより、水平・垂直統合を同時に実現できるのである。
参考に『グローバルコンタクトセンターサーベイ2024』にある、生成AI関連の調査結果を紹介する。
グローバルの回答結果では調査時点(2023年末から2024年初めごろ)で15%のコンタクトセンターが生成AIを導入済みである(図3)。また、導入済みの企業ではCXの向上や業務効率化の効果が実感されていることがわかる(図4)。顧客応対や後処理などのポイントでは、生成AIが成果を出しているといえるのではないか。
ただし、顧客対応単価(CPC)の低減効果に目を向けると、他の効果と比較して実感しているセンターは多くない。入口から出口まで、End to endのプロセスの改善とそれに伴う体制の見直しにまではつながっていないと読み取ることができるのではないか。
生成AIなどの先端的・高度なテクノロジーの導入にあわせて、水平・垂直統合を実現するプラットフォームの検討による、トータルなCXデザインとコスト効率化を提言したい。
<Next Action>
サービス変革のファーストステップとして、以下の設問の答えを考えてみてほしい。
✔ 先端テクノロジーを活用すると、貴社のサービス像はどのようなものになるか?
✔ 貴社の先端テクノロジーの調査・導入検討は、単発ではなくサービスの全体設計の1つとして組み込まれているか?(部分最適化していないか?)
✔ サービスを絶えず改善・進化させるために、データを取得・分析する仕組みが考えられているか?
2025年03月20日 00時00分 公開
2025年03月20日 00時00分 更新